- 労働基準監督署の調査ってどうなの?
- 何をどんなふうに調査されるのだろう…
こんなご質問をいただくことが増えてきました。
労働基準監督署の調査は、労働基準法と労働安全衛生法に基づいて会社に調査を行い、改善させることを目的としています。
労働基準監督署の調査による違反率は70%と極めて高く、厳しい調査です。
調査をきっかけとして、従業員から会社への信用はガタ落ちになり、退職者が続出…!という怖い事態に陥ってしまう会社もあるのです。
本記事では、
- 労基署調査でチェックされるポイント
- 具体的な違反例
- 労働時間に関する違反が多い理由
- 労働時間以外の違反理由
について解説します。
「労働基準監督署の調査が入っても大丈夫!」と言える体制づくりを事前にしておきましょう。
労基署調査でチェックされるポイント
労働基準監督署の調査で最も多いのが、時間外労働に関する法令違反です。
その根本には、36協定の運用の不備が関係していることが少なくありません。
36(サブロク)協定は、労働基準法第36条に基づく「時間外・休日労働に関する協定」の略称で、企業における労働時間管理の基礎となるものです。
36協定をしっかりと締結・運用できていないと、残業代の未払いや、従業員の健康障害など、様々な労務問題に発展しかねません。
36協定を単なる書類上の手続きとしてではなく、適切な労働時間管理のための重要なツールとして捉えていただき、しっかり理解しておくようにしましょう。
まず労働基準法では、労働時間は原則として1⽇8時間・1週40時間以内とされています(「法定労働時間」といいます)。
休⽇については、原則として毎週少なくとも1回与えることとされています。
この法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合には、
- 労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結
- 所轄労働基準監督署長への届出
が必要です。
36協定がなければ、労働者に時間外労働(残業)や休日労働をさせることができません。
36協定を締結している場合でも、時間外労働時間には上限が設けられています。
時間外労働の上限(限度時間)は、月45時間・年360時間と定められており、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間・年320時間以内となり、さらに厳しい上限となります。
36協定を結んでいたとしてもこれが原則になり、臨時的な特別の事情がなければ超えることができません。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項がある場合)でも、以下を守る必要があります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」が全て1⽉当たり80時間以内
- 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度
特別条項があってもなくても、1年を通してつねに時間外労働と休⽇労働の合計は⽉100時間未満、2〜6か⽉平均80時間以内にしなければなりません。
もし時間外労働の上限に違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
36協定の締結は、最終的に会社や経営者を守ることにつながると理解することが大切です。
しかしルールを守らなければいけないと分かってはいても、時間外労働のルールは極めて複雑なので、残念ながら違反している会社も少なくありません。
厚生労働省が令和6年7月に公表した「長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の監督指導結果を公表します」と題する書面によれば、違法な時間外労働があったのは11,610件です。
11,610件のうち、時間外労働・休日労働が月80時間を超えていた件数は48.9%でした。
月100時間を超えていたところは29.4%、月150時間を超えたところは6.3%。
月200時間を超えたのは、なんと35事業場もありました。
さらにそのうち賃金の未払いがあったのは、1,821事業場。
過重労働による健康障害防止措置(医者との面接など)をきちんとやっていなかった会社がなんと22.4%もありました。
そもそも労働時間の把握自体に問題がある、というところは17.1%でした。
労基署調査の違反事例
長時間労働が疑われる事業場に対しては、監督指導が行われます。
労働基準監督署が指導を行った事例をみていきましょう。
まず1つめの事例として、とある倉庫業の話です。
仕事が忙しいのと人手不足のために36協定の基準を超えており、月に最長127時間働いていました。
時間外・休日労働時間を1か月あたり80時間以内にするよう指導を受けています。
2つめは、製造業の事例です。
営業職の人が精神障害を発症したのをきっかけに残業管理したところ、月111時間を超えていたという事例です。
時間外・休日労働時間を1か月あたり80時間以内にするように求められたことはもちろん、固定残業代を超えた分の割増賃金が支払われていなかったり、月80時間を超えて働いていた方に「80時間を超えています」という通知をしていなかったりしたことが指摘されています。
3つめの事例として、法定残業のうち60時間を超えたところについては、法定割増率50%を超える金額で支払う必要がありますが、法定割増率を下回る計算で算出していた事例があります。
割増賃金の計算として入れるべき役職手当や精皆勤手当を除いていたこと、固定残業代分を超えた分について割増賃金を支払っていなかったことについても指摘されました。
未払い賃金がある場合には、再計算して支払うように指導が行われます。
厚生労働省が公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果」によれば、令和5年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払い事案の合計金額は101.9億円でした。
未払いの賃金がある場合、どのくらいの期間をさかのぼって支払うことになるかというと、原則3年です。
以前は時効が2年でしたが3年に伸びたので、最長3年間分の未払い賃金を請求できます。
ただ、労働基準監督署の調査では「3か月分を支払ってください」という命令が出ることが多いです。
とはいえ、厳しい場合は原則に立ち戻って3年間分の支払い勧告が行われます。
とくに申告事件の場合は、さかのぼる期間が増えて原則(3年)に近づいていくので、申告事件の場合は覚悟していただくことが必要になってきます。
労働時間に関する違反が多い理由
なぜ労働時間に関する違反が多いかというと、割増賃金に関するルールが複雑なため、いつのまにか違反しているケースが多いからです。
以下、代表的な例を挙げて説明いたします。
割増賃金率
中小企業の60時間を超える時間外労働に対する割増率は50%です。
2023年3月までは25%だったのですが、2023年4月1日からは割増率が50%に改正されました。
この改正にきちんと対応できていないケースがあるので、注意が必要です。
割増賃金計算の基礎
時間外労働賃金の計算の基礎を誤っている、というのもよくあることです。
残業代算定の基礎から外せる手当には、住宅手当や家族手当、通勤手当がありますが、それは費用に応じて支払っている必要があります。
残業代の計算に入れなくていい住宅手当というのは、たとえば住宅ローン残高や家賃に応じて段階を作っていることが必要になります。
一律で支払っている場合は、残業代の算定基礎に住宅手当を入れなければなりません。
固定残業代
残業手当の一律支給(固定残業手当)についても、労働基準監督署からよく指摘があります。
以下の事項を明示するよう固定残業の通達で定められています。
- 基本給の額
- 固定残業分の労働時間または金額
- 固定残業分を超える労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
通常の労働時間分にあたる賃金と、固定残業代にあたる部分を明確に区別して、就業規則や雇用契約書を作る必要があります。
さらに、固定残業代に応じた部分をたとえば40時間で決めていたとします。
この場合、40時間を超えた部分については、その分の時間外労働賃金を支払わなければなりません。
この支払いをしていない会社は、労働基準監督署の調査で賃金未払いと指摘されてしまいます。
管理監督者
管理監督者(管理職)には時間外手当や休日手当を支払う必要はありません。
ただし管理監督者とは、きちんと権限があり、管理監督者に見合った管理監督者らしい賃金額や昇給の仕方がある人のことをいいます。
管理職という「肩書き」があるだけで「実態」がないのであれば、管理監督者として認められません。
管理職手当の分も含めて残業代の計算根拠に入れた上で時間外労働賃金の支払いが命じられる、ということがあります。
分単位の計算
労働時間を1分単位で計算するように、という指摘も増えています。
労働時間の端数切り捨てはもともとできず、1分単位で計算するように法律で決まっています。
たとえば、「15分よりも短い部分をカットする」ということはできません。
最近は、分単位の労働時間についての指導が厳しくなってきています。
始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間が15分未満だった場合は15分に切り上げる処理が行われていた会社に対し、1分単位の正しい労働時間で再計算して差額の割増賃金を支払うよう、労働基準監督署から指摘・是正勧告された事例もあります。
労働時間以外の違反理由
労働時間以外の違反理由としては、以下の4つが挙げられます。
過重労働対策
労働基準監督署からの指摘で未払い賃金の次に多いのは、過重労働対策についてです。
労働時間が長いと心身と脳の病気に影響するといわれており、健康障害を防ぐために「医師による面接制度」があります。
時間外労働が80時間を越えて疲労の蓄積が認められる場合、本人の申し出があれば医師の面接が必要になり、その医師のアドバイスに従った処置をする必要があります。
「医師による面接」を行うため、時間外労働・休日労働が月80時間を超えたら労働者本人に通知する義務がありますが、この通知を行っていないケースが多いです。
さらに、申し出をした労働者に対して医師の面接指導を実施しなければいけませんし、実際に医師の面接を受けたら医師の意見を聞いて適切な事後措置を実施しなければならないと義務付けられています。
産業医がいる従業員50人以上の会社については、時間外労働・休日労働が1か月あたり80時間を超えた場合に労働者の作業環境・労働時間・深夜業の回数・時間を産業医に提供する義務があり、これについても是正を受けることがよくあります。
医師に面接を申し出るための書類は作られているか、そういったルールをきちんと規定にしているか、ということも指摘される場合があります。
勤怠管理システム
勤怠管理システムを導入していればいいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、勤怠管理システムの運用が問題視される場合があります。
「労働時間がカットされています」「実際に働いた分の労働時間がついてないんです」と申告があると、立ち入り調査でパソコンのログや勤怠システムの修正の跡をチェックされます。
なぜかというと、2019年4月から客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になったからです。
過重労働対策の一環として、時間外労働・休日労働が月80時間を超えたら労働者本人に通知する必要があるので、正確に労働時間を把握しなければなりません。
そのため、タイムカード・ICカード・パソコンなどの客観的な記録で労働時間を管理し、3年間保存する義務があります。
具体的な記録方法等は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に記載されています。
パソコンなどの電子機器だけではなく自己申告も認められていますし、事業者が自らの目で残業しているかどうかを確認することも客観的で適正な方法だといわれています。
ガイドラインに沿った適切な処置をすることが大切ですので、ぜひ読んでおくべきでしょう。
労使協定
労使協定の結び方が問題だと指摘されるケースもよくあります。
【過半数代表】
36協定や賃金向上の協定書など労使協定の過半数代表を選ぶ際に社長の鶴の一声で決まっていないか、本当に投票しているか、とチェックされます。
36協定を締結するためには、労働者の過半数で組織する労働組合か、労働者の過半数を代表する者による協定であることが必要です。
まず労働者の過半数で組織する労働組合かどうかがチェックされます。
過半数組合がない場合は、その代表者が投票・挙手など民主的な方法でちゃんと選ばれたのかどうかが大切です。
社長の鶴の一声や、総務担当者が流れでそのままやっている、というような場合は認められません。
民主的に選ばれたかどうかをチェックされますので、投票や挙手、話し合いをしたという証拠を残す必要があります。
ここがきちんとできていないと、36協定自体に効力がないことになってしまいます。
【管理監督者】
もう1つ労使協定の結び方のポイントとしては、管理監督者は過半数代表になれません。
経営者と一体として仕事をする人ですので、管理監督者は36協定のサインをする人にはなれません。
もし管理監督者が労使協定の締結をしていた場合、それが明るみになった時点で36協定も他のすべての労使協定も否認されます。
【提示】
労使協定が掲示されていない、という指摘を受けることもあります。
36協定と就業規則は、周知することが必要です。
常時作業場の見やすい場所に掲示・備え付けたり、印刷して交付したり、パソコンにデータを入れて誰でも見れるような状況にしていくことが求められているので、しっかり周知しておくようにしましょう。
周知していない就業規則は、効力がなくなってしまいます。
不利益変更したときも周知していないと、その不利益変更したことが認められずに全部否認されることになります。
労働基準監督署の調査では全部否認されることはあまりありませんが、弁護士が介入したとたんに全部否認という恐ろしい事態に発展する確率が高くなることを覚えておいた方がよいでしょう。
有給管理簿
有給管理簿を用意していない、と指摘されるケースもよく見受けられます。
年10日以上の有給休暇を付与している労働者に対して、使用者が時季を指定して5日間有給休暇を取得させる「年次有給休暇の時季指定義務」があります。
本人から有給休暇の請求がない場合には、会社が時季を指定して(たとえば「10月1日にとってください」「12月15日にとってください」)、5日間の有給休暇を取らせることが義務付けられています。
その証拠として、①時季②日数③基準日を労働者ごとに明らかにした年次有給休暇の管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
労働基準法施行規則第24条の7第1項に規定され、条文上では保管期間が5年となっていますが、経過措置により当面は保管期間3年とされています。
ロームなら正しい労働時間についてサポートができます
本記事では、労働基準監督署調査の実際の違反事例や、とくに労働時間・未払い賃金を中心にどんなことが指摘されるのかを解説しました。
ポイントをしっかりおさえて、ストレスなく経営をしていただく手助けになりましたら幸いです。
労働基準監督署の調査方法やポイントを知っているか知らないかで、会社の未来が大きく変わります。
労働基準監督署の調査で会社の重大なことを直すという羽目にならないためには、知っているだけではなくノウハウを実行することが重要です。
- 時間がない…
- コアな仕事に集中したい…
- 自分だけでやるのは不安だ…
そう思われた方は、本物のノウハウを持った専門家への依頼をご検討ください。
ロームは、上場企業を含む1,800社以上の顧問先にサービスを提供する社労士事務所です。
高い課題解決力が自慢です。
労働基準監督署調査の対策サポートが必要な方は、ぜひロームにご相談ください。
ロームでは、個別無料相談を実施しています。
Zoomでのご相談も可能ですので、遠方の方もぜひお気軽にお問い合わせください。