『雇用保険法改正』が会社にどんな影響を与えるかをご存じですか?
2024年5月に雇用保険法の一部改正が成立しました。
実は今回の法改正は、
中小企業や会社を経営している社長に大きな影響があります。
今後ますます退職者が増える可能性があるからです。
つまり、人手不足がより加速していきます。
そこで今回は、
- 改正雇用保険法が自己都合退職者を増やす理由
- 法改正の狙い
- 中小企業が取るべき対策
について解説します。
この記事を読めば、雇用保険法の改正の目的を理解し、自己都合退職者増加による人手不足を未然に防ぐことができます。
既に現在、退職者が増えていると感じている会社は多いはずです。
雇用保険法改正が自己都合退職者を増やす理由を知らずにいると、人手不足で倒産してしまうかもしれません。
雇用保険法改正が自己都合退職者を増やす理由
2024年5月に雇用保険法の一部改正が成立し、今後ますます自己都合退職者を増やす可能性が高まりました。
その理由として、
- 自己都合離職者の給付制限の見直し
- 教育訓練給付の拡充
- 雇用保険の適用拡大
の3つが挙げられます。
今回の雇用保険法改正によって、会社は深刻な人手不足に陥るかもしれません。
会社にどんな影響を与えるのかをきちんと理解しておきましょう。
自己都合離職者の給付制限の見直し
まず1つ目の自己都合退職者を増やす理由は、退職時の給付制限期間を2ヶ月から1ヶ月に変更するからです。
給付制限期間とは、自己都合退職した場合、一定期間において失業保険を受給できない期間のことです。
なぜ給付制限期間を短くするのかというと、雇用の流動性を高め、転職しやすい社会を作りたいからです。
具体的には、儲かってない会社から儲かってる企業に転職させたいと政府は考えています。
しかし、給付制限期間が長いと自己都合退職しづらいため、給付制限期間を短くして転職を促したいのです。
自己都合退職をした場合、退職時に発行される離職票をもって、ハローワークで失業保険の受給を申し込みます。
申込み後待機期間7日と給付制限期間の2ヶ月を経て、失業保険を受給できます。
つまり、現在は受給に約3ヶ月かかり、すぐに失業保険をもらえないようになっています。
しかし、今回の雇用保険改正により、給付制限期間が1ヶ月となり、受給が約2ヶ月と短縮されます。
したがって、給付制限期間の短縮が自己都合退職者を増やし、雇用の流動性を高めます。
成長しない古い会社から成長する企業へと今後ますます人材は流れていくでしょう。
教育訓練給付の拡充
次に2つ目の自己都合退職者を増やす理由は、自発的に教育訓練を受けている場合、給付制限期間がなくなるからです。
なぜこのような改正を行ったかというと、人口減少の中であっても賃金を上げていくために、職業能力の再開発、再教育を推進し、成長分野への人材の流動を進めたいからです。
具体的には、IT関連のスキルを身につけて、成長産業に転職させたいという思惑があるのではないかと考えられます。
引用元:教育訓練給付の講座指定について
離職中または離職前1年間に、教育訓練制度の対象講座を受けている人は給付制限期間がなくなります。
教育訓練制度とは、厚生労働省が指定する教育訓練を受講して修了したときに、受講にかかった費用の一部が支給される制度のことです。
主に資格の取得で利用されることが多い制度です。
引用元:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
さらに今回の雇用保険法改正では、支給される金額の上限が10%増えます。
つまり、支給金額が増えたことで自分の出費を抑えながら、資格やスキルの習得が可能になったということです。
教育訓練給付の拡充によって、
- 出費を抑えて転職に有利な教育訓練を受講可能
- 教育訓練の受講で失業保険の給付制限期間がなくなる
という2つの変化がもたらされます。
したがって、自己都合退職者を増やし、成長産業へ雇用が流れていくと考えられます。
雇用保険の適用拡大
次に3つ目の自己都合退職者を増やす理由は、2028年に雇用保険の加入対象者が増えるからです。
現在、労働時間が週20時間以上である短時間労働者が加入対象でした。
しかし、雇用保険法改正により、労働時間が週10時間以上に緩和されます。
なぜ加入対象者を拡大させたいのかというと、働く女性の正社員比率を高めたい、あるいはフルタイム化を進めたいと考えているからです。
具体的には人手不足が予想されるため、労働力の確保として専業主婦にパートや派遣社員、契約社員、フルタイム正社員で働いてもらいたいのです。
新たに雇用保険に加入する短時間労働者は約506万人と予想されます。
より多くの労働者が雇用保険の被保険者となり、失業したときの支援や育児休業中の給付を受けられるようになります。
しかし、企業としては雇用保険の加入者が増えて、雇用保険の会社負担料も上がります。
例えば1日5時間で月15日働き、月75時間働く人で時給1,000円だった場合、労働者負担450円+会社負担712円、1人当たり1,162円増えます。
雇用保険の適用拡大により、企業の保険料負担が増えます。
これは中小企業に大きなダメージを与えるでしょう。
雇用保険法改正の目的
ここまで雇用保険法改正によって自己都合退職者が増えてしまう理由を解説してきました。
ではなぜ、政府は自己都合退職者を増やしたいのか、今回の雇用保険法改正には明確な目的が3つあります。
- 転職しやすい社会にして、成長分野への労働移動を行う
- 短時間労働者からフルタイム労働者を増やす
- より多くの保険料を集める
前提として、日本は深刻な人手不足です。
30年前をピークに生産年齢人口である15歳から65歳までの働き盛りの人は減少し、現在は短時間労働者や非正規で働く女性、高齢者を増やしながら、労働力人口を確保しています。
しかし、2015年に6,600万人いた労働力人口は2030年には5,600万になり、1,000万人も減る予想です。
そのため、国は生産性の低い会社で働いている人を成長企業に移動させようと、今回の雇用保険法改正がありました。
中小企業はこれらを理解して経営していかなければ、自己都合退職者が増えて人手不足に陥り、倒産の危機が訪れてしまうかもしれません。
そうならないために、いま取るべき適切な対策をしておきましょう。
雇用保険法改正で勝ち残るための対策
雇用保険法改正がもたらす影響と目的がわかったかと思います。
しかし、どのようにして会社へのダメージを最小限にするかを理解しておかなければ、今後勝ち残ることはできません。
雇用保険法改正で生き残るための対策は2つあります。
- 雇用の流動を止めるための魅力的な会社づくり
- 人手不足でもできる経営戦略の見直し
国の思惑に抵抗して自己都合退職者を止めることも大事ですが、深刻化する人手不足という状況においても通用する経営戦略を考えることも今後同じくらい大事になっていきます。
雇用の流動を止めるための魅力的な会社づくり
自己都合退職者を減らすためには、従業員から選ばれる魅力的な会社を作らなければなりません。
具体的には、労働条件の良い会社を作る必要があります。
例えば、
- 給料が高い
- 残業が少ない
- 働きがいがある
- お客さまや同僚から感謝される
- 人間関係が良い
- チームワークがいい
- 介護や育児を助けられる会社
というような会社を目指すべきです。
しかし、儲かっていなければ給料は上げられません。
粗利益を上げるために、お客様が高くても買いたくなる魅力を作らなければなりません。
つまり、お客様から感謝される状況を作り出して、労働者に高い賃金を払える状況を作るための経営戦略の見直しが必要です。
人手不足でもできる経営戦略の見直し
魅力的な会社づくりのためにも、良い労働条件として給料が高いことは重要なポイントです。
従業員の給料を上げるためには、人手不足でも収益を上げられる経営戦略の見直しが必要です。
例えば、給料を高くするためには人時生産性を高める必要があります。
人時生産性とは、粗利益高を総労働時間で割ったものです。
労働時間を短くすると、粗利益を増やすことで儲けることができます。
一番重要なのは、単価を上げることです。
値上げで販売数量を減らしていくのか、値上げしつつさらに成長していくのかで、値上げは必須です。
残念ながら、販売数量重視の会社は赤字になって潰れていきます。
値上げして販売数量を減らしていったほうが黒字を維持し、個数が少ないから人手不足でもできます。
これからの時代は値上げしなければいけません。
売値 |
販売個数 |
売上 |
仕入れ値 |
固定費 |
粗利総額 |
100円 |
10個 |
1,000円 |
700円 |
200円 |
100円 |
90円 |
11個 |
990円 |
770円 |
200円 |
20円 |
80円 |
12個 |
960円 |
840円 |
200円 |
-80円 |
110円 |
9個 |
990円 |
630円 |
200円 |
160円 |
120円 |
8個 |
960円 |
560円 |
200円 |
200円 |
このように利益に比べて人手がかかる仕事や、サービスや商品やお客様はないかを考えましょう。
人手不足に合わせた経営戦略の見直しがとても重要です。
人手不足でも魅力的な会社であり続ける
この記事では、
- 雇用保険法改正で自己都合退職者を増やす理由
- 法改正の狙い
- 中小企業が取るべき対策
を解説してきました。
フルタイム労働者を増やしながら、転職しやすい社会で成長分野への雇用の流動化を促進することが今後のトレンドになります。
そのため、中小企業はこのトレンドに合わせて対策を練る必要があります。
人手不足で倒産の危機にならないよう、魅力的な会社作りを根底とした経営戦略の見直しを図っていきましょう。
もし今後必要とされる〝経営戦略〟がよくわからない場合には、私たちロームにご相談ください。
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では最後に、今回の記事本文でお伝えした大切なポイントを再度載せておきます。
<雇用保険法改正で自己都合退職者を増やす理由>
- 自己都合離職者の給付制限の見直し
- 教育訓練給付の拡充
- 雇用保険の適用拡大
<法改正の狙い>
- 転職しやすい社会にして、成長分野への労働移動を行う
- 短時間労働者からフルタイム労働者を増やす
- より多くの保険料を集める
<中小企業が取るべき対策>
- 雇用の流動を止めるための魅力的な会社づくり
- 人手不足でもできる経営戦略の見直し