企業経営者や事業主の方の中には、給料支払や保険料支払いなどを少なからず負担に思われている方もいらっしゃると思います。
そこで、従業員の方への給与負担や社会保険料の会社負担分などを一挙に軽減できる選択型確定拠出年金をご紹介したいと思います。
この記事では、日頃からコスト軽減に悩まれている経営者の方や、新しい確定拠出年金制度の導入を検討している事業主の方はぜひ参考にしてみてください。
選択型確定拠出年金とは?
確定拠出年金は主に企業型と個人型(iDeCo)の2種類に分けられます。選択型確定拠出年金とは、そのうちの片方である企業型確定拠出年金の1種であり、文字通り「給与から切り出した金額」を掛け金として拠出することが特徴です。
通常の企業型確定拠出年金では掛け金を会社が負担してくれるところを、選択型確定拠出年金では従業員の給与から切り出して掛け金(生涯設計手当)に回すため損ではないのかと思われるかもしれません。
しかし、会社が掛け金を負担してくれるだけな企業型確定拠出年金と、給与から掛け金を切り出すことで得られる恩恵もある選択型確定拠出年金では、それぞれメリットとなるポイントが異なっているのです。
選択性企業型確定拠出年金のため、掛金は自分で設定する
選択型確定拠出年金は企業型の1種です。金額決定も掛金負担も納付も全て企業側が行う一般的な企業型確定拠出年金とは違い、従業員個人が給与からどれだけ引いて掛け金に回すかを決めなければなりません。拠出限度額が5万5,000円と設定されているため、多すぎる金額を掛け金に回すことはできませんが、逆に1円も掛け金に回さず全て給与として受け取るということもできます。
給与からどれだけ掛け金に回すかを個人で決められることがこの年金の最大の特徴であるため、選択型確定拠出年金を活用する際は、自分の収支状況をよく考えた上で掛け金を決めるようにしましょう。
積み立てた確定拠出年金は、転職や退職した後も引き継ぐことができる
積み立てた金額は給与から切り出した個人資産であるため、転職などによって会社が変わってもそのまま積み立てを続けることができます。
一般的な企業型確定拠出年金であれば、転職や退職の際に積み立てている年金を転職先に移換したり、あるいは個人型に移換したりすることになりますが、そうなると、ある程度の手続きが必要になったり、手数料を自己負担したりする場合もあるため、そういった煩わしさがないことも選択型確定拠出年金のメリットと言えるでしょう。
選択型確定拠出年金は社会保険料などのコストを削減する
選択型確定拠出年金が他の確定拠出年金と違うのは、掛け金が給与から拠出されているという点です。そう聞くと「給与から拠出するなら毎月の給与額が減ってしまうのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに給与から掛け金が拠出されるます。毎月の見た目の給与額は減ることになりますが、しかし、給与が、生涯設計手当に代わることは、総支給額によってその金額が決定されている税金や社会保険料などが減額されるということでもあるのです。
社会保険料が下がる
選択型確定拠出年金では給与から掛け金を拠出のためにしますが、そもそもその掛け金は年金のために拠出しているため、無駄にしているわけではありません。時間はかかりますが将来的に回収できるお金と考えることもできます。
しかし、基本給から掛け金を拠出することで下がった保険料の金額は支払った時点で確定するため、年金の回収と同時に保険料支払いも帰ってきたりはしません。つまり、支払う保険料の金額が下がるだけで、短期的なコスト削減に繋がるということです。
所得税・住民税が下がる
また、所得税・住民税も基本給の金額から算出されているため、選択型確定拠出年金の導入によって税金の支払額が下がることになります。
家族構成などで多少変動しますが、例えば年収500万円の方が毎月拠出限度額の5万5,000円を掛け金に回した場合、社会保険料・所得税・住民税の軽減効果により、年間約15万円の軽減効果が見込めるとされています。
このように、選択型確定拠出年金によって削減できるコストは人によっては大きなものとなることもあるのです。
選択型確定拠出年金は節税対策としても有効
さらに、選択型確定拠出年金は保険料軽減などの短期的なコスト削減だけではなく、3種類の税制優遇措置の対象でもあるのです。
そのため、人によってはそれらの税制優遇措置を上手く活用することで大きな節税効果を得ることもできます。
ではその3種類の税制優遇措置とは何かということを解説しますので、節税対策に悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
非課税
まず、毎月確定拠出年金に積み立てられる掛け金ですが、基本給切り出し型確定拠出年金の場合は、その掛け金が非課税となります。これは、基本給切り出し型確定拠出年金で基本給から拠出された掛け金がそもそも基本給に含まれておらず「個人の所得」と見なされないためです。
全て額面通りに給与を受け取ってから、その給与から掛け金を拠出していれば、その掛け金は課税対象となります。そのため、そこで基本給切り出し型確定拠出年金の方とそれ以外で税金の負担額に差異が発生し、掛け金にかかる税金の金額分だけ節税になるということです。
運用益が非課税
次に、確定拠出年金の運用で得られた利益にかかる税金も非課税の対象となっています。
これは、通常、年金資産の運用には特別法人税がかかるようになっていますが、現在は2023年3月末まで特別法人税の課税が凍結されているため、確定拠出年金で運用益が発生しても非課税となるからです。
受け取り方ごとに異なる税控除を受けられる
そして、積み立てが終了した年金を受け取る際に発生する税金ですが、これは受取方法によって異なる節税対策となっています。そのため、どういう形で受けとるのが最も節税対策となるのか、自身の状況に応じて判断しなければなりません。
一括での受け取りなど一時金による受け取りの場合は、退職所得ということになるため、退職所得控除が利用できます。退職所得では勤続年数によって控除額が変わるため、1箇所で長く働いた方はこの受取方法がよいかもしれません。
年金による受け取りの場合は、公的年金等控除を受けることができます。公的年金控除は受取時の年齢などによって控除額が変わるため、長期間積み立てを続けていた方はこの受取方法がいいかもしれません。
選択型確定拠出年金を導入する際の変更事項
様々なメリットがある基本給切り出し型確定拠出年金ですが、個人がこの確定拠出年金を希望しても勤め先が対応していなければ、そもそも掛け金を積み立てることもできません。
では会社が新たに選択型確定拠出年金を導入すると、就業規則や給与明細はどう変化するのでしょうか。
給与明細に新しい項目が追加される
通常の企業型確定拠出年金とは違い、選択型確定拠出年金は従業員が掛け金を自分の給与から拠出するため、制度を導入すると給与明細に変更が生じます。
導入後は、給与明細に「生涯設計手当」の項目が追加され、拠出限度額として5万5,000円と表記され、その後は基本給額が5万5,000円分下がったものとなるのです。そして、従業員が掛け金として拠出する金額は更に別の「確定拠出年金」という減額の項目として表記されるようになります。
就業規則が一部変更となる
また、給与の内容が変更となるため、就業規則も変更となり、就業規則内の給与規定欄に「生涯設計手当」という新しい項目が追加されます。
これは選択型確定拠出年金の制度を新たに導入した際にする必要があることであり、新制度導入と同時に就業規則を厚生労働省に提出しなければなりません。
選択型確定拠出年金のデメリット
保険料・住民税・所得税の減額や節税対策など、選択型確定拠出年金には様々なメリットがあると解説してきましたが、一方でこの制度にはデメリットもあるということは忘れてはなりません。
なぜなら、過去この確定拠出年金に関する充分な説明が行き届いていなかったことから、2020年10月には確定拠出年金の法令解釈通知が改正・施行され、事業主は労働者に正確な説明をする必要があると定められたからです。
基本給切り出し型確定拠出年金を勧める際には、必ずメリットだけでなくデメリットも踏まえ、この確定拠出年金を選んだ場合、後々どうなるのかということまで説明するようにしましょう。
受給できる年金額が減少する
基本給切り出し型確定拠出年金のデメリットして忘れてはならないのは、年金の受給金額が下がるということです。
基本給から掛け金を切り出すということはその分基本給、つまり老齢厚生年金などの基準となる標準報酬月額の等級が下がり、将来受け取る年金の金額も下がることになります。
年金には他にも障害年金や遺族年金など様々な種類があり、そういったいざというときのための補償金額まで下げることにも繋がるため、本当に基本給切り出し型確定拠出年金を選ぼうとしている方は事前にそういった事情もよく考えた上で決めるべきでしょう。
社会保険料が下がるため、社会保障給付金額が下がる
また、上記では選択型確定拠出年金のメリットとして、社会保険料の算定対象外になることを挙げましたが、それは裏を返せば、社会保険から得られる恩恵が少なくなるということでもあります。
自分が怪我を負ったり病気になったりした際に支給される傷病手当金や、職を失った際に支給される失業手当など、そういった将来への備えの金額まで減らしていることになるのです。
このように、基本給の減少は障害・遺族年金や傷病補償にも影響するため、そういった将来の補償に不安がある人には、選択型確定拠出年金は向いていないかもしれません。
年金受給年齢になるまで掛金を回収することができない
最後に単純な話ですが、基本給から切り出した文の掛け金は将来受給するための確定拠出年金に回されます。つまり、すぐに使えるお金にはならないということです。
確定拠出年金は基本的に年金の受取時まで掛け金を回収できません。そのため他の金融機関の積立金のように、積み立てつつもいざとなったら切り崩して即座に現金に変えるという手段が取れないのです。
このように、金銭面において不安がある方や、将来大きな金額を支払う可能性があるかもしれないような方は選択型確定拠出年金は向いていないかもしれません。
選択型確定拠出年金のことならロームにご相談ください
選択型確定拠出年金にはデメリットもありますが、個人が自由に決めることができる掛け金拠出金額、社会保険料・住民税・所得税の削減、3種類の節税対策など、上手く活用すれば大きな利益につながるメリットもたくさん存在します。
選択型確定拠出年金は、会社側が負担する分の社会保険料も見直され、企業経営者や事業主の方にとっても、大きなメリットのあるものです。
社会保険料・住民税・所得税の削減、3種類の節税対策など、従業員にとってもメリットがある制度なため、経営者と従業員の双方得となるよう、これを機に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
そして、選択型確定拠出年金の導入検討の際は、「人事労務のプロ」である社会保険労務士法人ロームにぜひお気軽にお問い合わせください。