男性育休を促す育児・介護休業法の改正法が2021年6月に成立しました。この改正育休法では男性の育児休業取得がより進められるような制度の追加や変更が行われたことにより、自社の育休制度をどう変更すべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
一瞬ピンチに思える制度ですが、うまく活用するとマニュアル化の推進などにも使えます。そこで今回は会社経営者に向け、改正育休法の変更点や助成金について詳しく解説します。
育児・介護休業法とは
そもそも育児・介護休業法とは、育児や介護を行っている人が仕事との両立を行いやすいようにサポートし、働きやすい環境をつくるためにつくられた法律です。例えば産前産後休業や育児休業などの育児支援、介護休業などの介護支援制度があります。
2000年以降に仕事と育児・介護を両立する難しさが社会問題として頻繁に取り上げられていたことなどもあり、時間外労働の制限や介護休暇制度が追加されるなど、時代の流れに合わせてよりサポートができるよう改正が続けられています。
まだまだ浸透しない男性の育休
今回法改正が行われた背景としては、女性が担う家事・育児の負担を軽減し男性も積極的に家事・育児に参加することで女性の社会進出を促す目的があります。
実際厚生労働省の調査によれば、女性の育休取得率は80%台をキープしている一方で、男性は2020年度でも12.65%となっており、日数もわずか5日未満が約28%を占めています。このように現在の日本では男性の育休取得率が非常に低い現状を変えるため、法改正がなされました。
改正育休法における男性育休の6つのポイント
では今回の法改正により、男性の育休取得に関してどのような部分が変わったのでしょうか?そのポイントは以下の6つです。
- 産後直後に取得しやすい「男性版産休」を創設(2022年4月~)
- 会社による育休取得の確認を義務化(2022年10月ごろ~)
- 育休休暇を2回に分けて取得できる(2022年10月ごろ~)
- 休業中も取得日数の半分は仕事ができる(2022年10月ごろ~)
- 大企業は男性の育休取得率の公表を義務化(2022年4月~)
- より気軽に申請しやすく非正規も取得できる(2022年4月~)
では以下の項目で詳しく見ていきましょう。
産後直後に取得しやすい「男性版産休」を創設(2022年4月~)
まずこれまでの育休制度では子どもが最大2歳までに1度取得する仕組みとなっていましたが、これをパワーアップさせた「出生時育児休業」、いわゆる「男性版産休」が創設されました。後ほど詳しく紹介しますが、より気軽に取得できるようになり、休みを分割することも可能です。
また女性の産後休業は産後の8週間となっているため、これに合わせて男性が取得しやすいような育休となっています。くわえて申請から実施までの期間が短くなったことから、柔軟な対応を行うことが可能です。
施行日は公布から1年6ヵ月以内と法令で定められていることから、2022年10月以降に実施される予定です。
会社による育休取得の確認を義務化(2022年10月ごろ~)
法改正により育休取得の対象となっている男性についても、会社から育休を取得するか確認することが義務化されました。これまでの制度では、配偶者が妊娠・出産したことを会社に報告した場合、育休制度の説明や取得するかどうかの確認は努力義務に留まっていました。
しかし男性の育休取得を妨げる壁となっているのが職場の空気であり、職場が育休取得をしづらい雰囲気になることを防ぐため、努力義務から義務化へと引き上げられました。
育休休暇を2回に分けて取得できる(2022年10月ごろ~)
先ほども軽く紹介したように、法改正により育休を2回に分割して取得できるようになりました。また男性育休を女性の産後育休に合わせられるよう、出産日から8週間の間に4週間取得できます。
この4週間を分割することで、繁忙期の前後に取得するなど仕事の都合上長期間職場を空けることができない人でも育休が取りやすくなります。また1歳以降に育休を延長する場合も、開始日が1歳か1歳半に限定されていましたが、今後は途中からでも取得が可能です。
休業中も取得日数の半分は仕事ができる(2022年10月ごろ~)
生後8週間の育休期間中でも合意があれば、取得日の半数を上限に仕事を行うことが可能です。在宅勤務が浸透しつつある現在、育休中でも仕事ができるのであれば、と取得しやすさを感じてもらうことが目的です。
なお育休中の収入はこれまでと同じように上限はあるものの、育休開始時には賃金の67%(7ヵ月以降は50%)が休業給付金として支給されます。また保険料などが免除されることから実際には収入の8割が育休中も保証されると考えていいでしょう。
大企業は男性の育休取得率の公表を義務化(2023年4月~)
従業員1000人を超える会社では、育休の取得状況を公表することが義務付けられます。想定されているのは「育休などの取得率」や「育休などと育児目的休暇の取得率」です。
これらは社会から見た企業価値やブランドイメージにも繋がっていくため、公表することで、国の手本として育休を取りやすい風土づくりを意識づけることが目的となっています。
より気軽に申請しやすく非正規も取得できる(2022年4月~)
これまで育休の申請は1ヵ月前までに行う必要がありましたが、今回の法改正により2週間前に変更され、より気軽に申請がしやすくなりました。またパートや契約社員などの非正規雇用に対する規制も緩和。
以前は雇用期間が継続で1年以上でなければ申請ができませんでしたが、これが撤廃され誰でも育休の取得ができるようになりました。
企業が男性育休で活用できる助成金・奨励金制度は?
こういった国が積極的に推奨を行っている制度を企業で導入する場合、気になるのは育休取得を従業員に勧めやすくなるような、助成金や奨励金の制度があるかということです。
そこで次に国が実施している両立支援助成金「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」と、東京都で実施している「働くパパママ育休取得応援事業」について紹介します。
最大84万円の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」
これは中小企業で、男性労働者に子どもの出産後8週間以内に連続5日以上の育児休業を取得させると支給される助成金です。支給額は1人目で基本額57万円ですが、生産性があると認められれば72万円に増額。
また育休取得がしやすい職場風土づくりや、育休前の個別面談などを行うことでポイントが加算されればさらに12万円が追加され、最大84万円が支給されます。ただし会社としての後押しをする取り組みを行う必要があるため、社会保険労務士などの専門家に相談を行うのがおすすめです。
都内で利用できる「働くパパママ育休取得応援事業」
東京都が東京しごと財団と連携し、中小企業で起こる育児による離職を避け、男性の育休取得を促進するために奨励金を支給している事業です。
「働くママコース」と「働くパパコース」の2つのコースがあり、ママコースは育児中の就業継続の確保、パパコースは男性の育休取得を高め、女性活躍推進を後押しすることが目的です。ではそれぞれのコースについて詳しく見ていきましょう。
働くママコース(都内中小企業への奨励金定額125万円)
働くママコースは従業員に1年以上育休を取得させ、育児中の雇用を継続するための職場づくりを行った企業に給付金が支給されます。男性も対象ですが働くパパコースとの併用はできません。
対象となるのは都内の中小企業で、従業員に1年以上の育休を取得させ、原職に復帰してから3ヵ月以上雇用継続することが条件です。また就業規則に育児・介護休業法を上回る育休期間の延長や、育児による時短勤務制度の利用年数延長などを定めることで、最大125万円が支給されます。
働くパパコース(都内企業への奨励金最大300万円)
働くパパコースは男性労働者に育休を取得させ、育児参加を促した企業に奨励金が支給されます。都内企業で男性従業員に連続で15日以上の育休を取得させた後、原職に復帰し3ヵ月以上継続で雇用することが条件です。
子どもが2歳になるまでの期間が対象で、奨励金の額は連続15日取得であれば25万円が支給されます。また15日以上になれば以降15日ごとに25万円ずつ加算され、最大で300万円の給付金を得ることが可能です。
男性に育休を取得してもらうメリット
男性の育休取得は国が推奨していることもあり、助成金や奨励金の支給も可能です。しかし助成金などを抜きにしても、経営者の目線から見て男性が育休を取得するメリットは以下の通り多く存在します。
- 多角的な視野と経験が得られる
- 利益で見てもプラス要素が多い
- 新卒採用などでも有利に働く
では次の項目で詳しく見ていきましょう。
多角的な視野と経験が得られる
育休を取得し育児に参加することは、これまで経験したことのない体験をするということです。今までに自分の中になかった、親としての目線が生まれることから多角的な視野で物事を見られるようになります。
これは仕事にも応用できるため、今までにない発想をもって仕事に臨めるようになるでしょう。また職場に子どもを持つ従業員が入れば共通の話題にもなるため、円滑なコミュニケーションにも役立ちます。
利益で見てもプラス要素が多い
先ほども紹介したように、育休取得者は給付金で実質的に収入の約8割が保証されます。この時に支払われる育休給付金は雇用保険から支払われるため会社の負担は0円であり、損得計算書上は利益をプラスにできます。
また従業員の育休取得では上記のような助成金が用意されていることから、これらの給付金により、より多くの利益を得ることも可能です。
新卒採用などでも有利に働く
男性の育休取得率向上は職場環境のよさにも繋がるため、新卒採用でアピールすることにより優秀な人材の確保をする際有利に働きます。また男性の育休取得率向上はSDGsのNo.5「ジェンダー平等」やNo.8「働きがい」に合致します。
SDGsは取り組むほど優良企業としてのイメージがつくため、新卒採用に有利なのはもちろん、企業価値やブランドイメージを向上させることも可能です。
育休取得によって社内から出る不満に注意
会社として育休取得を推進する以上、抜けた穴を埋めるため現場の上司や同僚に負担を強いることから、同じ部署などで不満が出る可能性もあります。そのため会社としては、逆にインセンティブを与えるような制度設計を行うことが大切です。
例えば部下の育休取得率を評価に組み込む、業務負担を請け負った人物に手当を支給するなど、会社全体でフォローできる体制づくりを行ってください。
就業規則や助成金・奨励金の相談はロームにご相談ください
今回は育休法の改正のポイントや、活用できる助成金・奨励金などについて紹介しました。男性の育休取得を促す今回の法改正は、一瞬ピンチに思える制度ですがうまく活用すればマニュアル化の推進を一気に進めるチャンスでもあり、採用にも有利に働きます。
就業規則の変更や、助成金・奨励金の導入を検討している方は、「人」と「経営」の専門家である社会保険労務士法人ロームにぜひご相談ください。