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2021.10.04

【令和3年度】最低賃金の引き上げ額や企業に与える影響、対策を解説

令和3年10月から最低賃金が引き上げられ、最賃の全国平均は902円から930円に上がります。従業員の給与額を最賃額で設定している企業は賃金の改定などの対応が必要です。

この記事では、令和3年度の最賃の改定が企業に与える影響や企業ができる対策を解説します。最賃の引き上げによる経営への影響を危惧されている方も多いと思いますが、業務効率化や売価アップ、助成金活用などおすすめの対処法を紹介しますので、最賃対策を検討する際にぜひ参考にしてください。

最低賃金とは

最低賃金制度とは最低賃金法に基づいて国が賃金の最低額を定める制度です。使用者は労働者に対して最賃額以上の賃金を支払わなければいけません。

最賃は基本的に毎年改定が行われ、現在の賃金規定のままだと改定後に最賃額を下回る場合には賃金の引き上げが必要です。必要な対応を適切に取るためにも、まずは最賃とは何か、制度の仕組みを確認しておきましょう。

最低賃金には地域別と特定の2種類ある

最賃には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類あり、両方の適用を受ける場合は高いほうの額以上の賃金を払う必要があります

  • 地域別最賃:都道府県別に設定されている最賃
  • 特定最賃:特定の産業について設定されている最賃

地域別最賃は産業や職業に関わりなく各都道府県に1つずつ設定され、特定最賃は地域別最賃よりも高い賃金を設定すべきと考えられる産業に設定されています。

都道府県内の事業場で働くすべての労働者に適用されるのが地域別最賃、特定地域内の特定の産業で働く労働者に適用されるのが特定最賃です。

最低賃金法に違反すると罰則を科される

地域別最賃に違反すると最賃法違反になり50万円以下の罰金が科され、特定最賃に違反すると労働基準法違反になり30万円以下の罰金が科されます。最賃額未満の賃金しか払わなかった場合には最賃額との差額を支払わなければいけません。

また仮に最賃額より低い賃金を労働者・使用者双方が合意した上で定めても無効となり、最賃額と同額の定めをしたものとして扱われます。

なお派遣労働者に適用されるのは派遣先の最賃で、最賃額以上かどうかを判定する際の賃金計算で対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金です。実際に払われる賃金から一部の賃金(割増賃金・精皆勤手当・通勤手当・家族手当など)を除いたものが対象で、賃金額を時間あたりに換算して最賃額以上になっているかを判定します。

毎年10月頃に新たな最低賃金額が適用される

賃金の実態調査の結果などを踏まえて最低賃金審議会で審議が行われて最賃額が決定され、毎年10月上旬頃に新たな最賃額の適用が開始されます。適用が開始される日付は都道府県によって若干異なりますが、多くの都道府県では10月1日が適用開始日です。

使用者は、最賃の額や適用を受ける労働者の範囲、効力発生年月日などを常時作業場の見やすい場所に掲示するなどして、その内容を周知する必要があります。

令和3年度の最低賃金引き上げの内容と影響

最賃の引き上げ額の目安額が令和3年7月に発表され、10月から最賃額が大幅に引き上げられることになりました。昭和53年度に目安制度が始まって以降では最大の上げ幅となり、影響を受ける企業は少なくありません。自社が10月以降に適用を受ける最賃額が一体いくらになるのか、しっかりと確認しておく必要があります。

最低賃金の平均額を902円から930円に引き上げ

令和3年10月から適用される都道府県ごとの最賃(地域別最賃)は次の一覧表のとおりです。

全国平均額は902円から930円に引き上がり、金額にして28円、率にして3.1%の引き上げとなります。

7月に国が引き上げ額の目安額を示した際は、すべての都道府県で最賃額を28円引き上げることが目安として示されましたが、最終的に一部都道府県では28円を上回る上げ幅となりました。

最低賃金の引き上げで企業の人件費がアップ

令和2年度の最賃額で賃金を設定している企業などは、10月以降従業員に支払う賃金を少なくとも改定後の最賃の水準まで引き上げなければいけません

例えば東京都の企業が賃金を最賃額で設定している場合、1ヶ月の労働日数が20日間・1日の労働時間が8時間の労働者に支払う賃金は、改定前後で以下のとおり変わります。

  • 改正前(令和2年度):1,013円 × 8時間 × 20日間 = 162,080円
  • 改正後(令和3年度):1,041円 × 8時間 × 20日間 = 166,560円
  • 改正に伴う人件費の増加額 = 166,560円 – 162,080円 = 4,480円

なおこの金額は従業員1人につき増加する人件費の金額です。従業員数が多い企業の場合は人件費負担がより増えることになります。

最低賃金の引き上げに対して企業ができる対策

最賃の引き上げに伴って従業員の給与を引き上げると、人件費が増加するため経営上のマイナス要因になります。ただ長引くコロナの影響などで、企業によっては経営にそれほど余裕がないケースもあるはずです。事業経営に与える影響を少しでも緩和する方法として、例えば次のような対策が考えられます。

  • 業務を効率化して費用を削減する
  • 売価をアップして、最賃の引き上げを吸収する
  • 業務改善助成金を活用して資金を確保する

ここでは各対策の概要を紹介しますが、どのような対策を取るのが良いのかは企業ごとに異なります。社会保険労務士法人ロームでは事業経営者のサポートを行っていますので、最賃の引き上げ対策をご検討中の方はお気軽にご相談ください。

業務を効率化して費用を削減する

最賃の引き上げ対策の1つ目は業務の効率化による費用の削減です。例えば無駄な業務を洗い出して削減すれば残業時間が減って残業代の支払いを抑えられます。また設備投資を見直すと費用を抑えられる場合があるので、経費の内訳を今一度確認すると良いでしょう。

業務の効率化に関しては、残業代が削減できて経営者にとってメリットになるだけでなく、残業時間を短縮できてワークライフバランスを達成できるため、従業員にとってもメリットになります。

売価をアップして、最低賃金の引き上げを吸収する

最賃の引き上げ対策の2つ目は売価のアップです。人件費がアップした分を売価に反映させれば、最賃の引き上げに伴う影響を吸収できます。

もちろん売価を上げると顧客離れを招いて売上が落ち込む可能性があるため売価のアップは慎重に行うべきですが、その一方でコスト(人件費)の増加を売価に転嫁せざるを得ないケースもあるはずです。

顧客離れを懸念して売価のアップを躊躇される方もいますが、最賃の引き上げ対策のひとつとして売価のアップも検討するようにしてください。

業務改善助成金を活用して資金を確保する

最賃の引き上げ対策の3つ目は業務改善助成金の活用です。業務改善助成金とは中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援して賃金の引き上げを図るための制度で、一定の要件を満たすと助成金を受け取れます。

詳細な要件や手続方法は後述しますが、生産性向上のための設備投資などを行って最賃を一定額以上引き上げた場合に設備投資などにかかった費用の助成を受けられるため、最賃の引き上げ対策として活用すると良いでしょう。

事業経営に役立つ「業務改善助成金」の概要

業務改善助成金を受給するには一定の要件を満たす必要があり、賃金の引き上げ額や対象労働者の人数によって助成額が変わります。最賃の引き上げ対策としてぜひとも活用したい制度のひとつです。

申請期限は令和4年1月末ですが予算枠に達すると申請期間内でも募集が終了となる可能性があります。当助成金を活用する場合は早めに申請を行うようにしてください。

支給要件|賃金引上計画の策定が必要

当助成金の支給を受けるための主な要件は次の4つです。助成金を受け取るには最賃を一定額以上引き上げることを賃金引上計画に盛り込み、就業規則等に規定する必要があります

  1. 賃金引上計画を策定すること
  2. 引き上げ後の賃金額を支払うこと
  3. 生産性向上に資する機器・設備などを導入することで業務改善を行い、その費用を支払うこと
  4. 解雇や賃金引き下げ等の不交付事由がないこと

生産性向上に資する設備・機器の導入とは例えば次のようなケースが該当し、機器の導入だけでなくコンサルティング導入や人材育成・教育訓練でも対象になる場合があります。

  • POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
  • リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
  • 顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
  • 専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上 など

助成額|令和3年8月から制度が拡充

令和3年8月から制度が拡充されて45円コースが新設され、各コースに10人以上の区分が新たに設けられました。助成額の最高額は、従来は90円コース・7人以上の450万円でしたが、8月以降は90円コース・10人以上の600万円に上がっています。

出典:厚労省HP

なお10人以上の区分は以下のいずれかに該当する事業場が対象となります。

  • 賃金要件:事業場内最賃900円未満の事業場
  • 生産量要件:売上高や生産量などの事業活動を示す指標の直近3ヶ月間の月平均値が前年または前々年の同じ月に比べて30%以上減少している事業者

業務改善助成金を利用する場合の手続き方法

当助成金を利用する場合の手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 助成金交付申請書を提出する
  2. 内容が適正と認められれば助成金交付決定通知が行われる
  3. 計画に基づいて業務改善や賃金の引き上げを実施する
  4. 事業実績報告書を提出する
  5. 助成金の額の確定通知が行われる

まず当助成金を利用するには、設備投資などの実施計画を定めた「業務改善計画」と、最賃の引上計画を定めた「賃金引上計画」を記載した交付申請書の作成・提出が必要です。都道府県労働局に提出すると審査が行われ、内容が適正と認められれば交付決定通知が行われます。

交付決定通知を受けたら業務改善計画に基づいて設備投資等を、賃金引上計画に基づいて最賃の引き上げをそれぞれ行い、業務改善計画の実施結果や賃金の引き上げ状況を記載した事業実績報告書を作成して都道府県労働局に提出する、というのが大まかな流れです。都道府県労働局で審査が行われて審査に通れば助成金が支給されます。

なお申請書や報告書の作成を経営者自身でやろうとすると、作成方法がよく分からず悩む場合や日々の業務で忙しくてそもそも作成時間が取れず困る場合が少なくありません。社会保険労務士法人ロームでは助成金の手続きサポートを行っていますので、業務改善助成金の活用をご検討中の方はお気軽にお問い合わせください。

最低賃金の引き上げ対策の相談は社労士へ

令和3年10月以降は最賃が全国平均で28円引き上げられます。過年度の引き上げ額に比べて上げ幅が大きく、企業経営に与える影響は小さくありません。業務効率化による費用の削減や売価のアップ、業務改善助成金の活用など、できる限りの対策を講じて最賃の引き上げに伴う影響を少しでも緩和するようにしましょう

社会保険労務士法人ロームでは就業規則の作成や変更、助成金の活用などさまざまなサポートを行っています。数多くの企業をサポートしてきた豊富な実績を持つ社会保険労務士法人ロームであれば、ピンチをチャンスに変えるためのご提案やサポートが可能です。

最賃の引き上げ対策をご検討中の方はお気軽にお問い合わせください。

 

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