社会保険労務士法人 ロームのお役立ち情報

2021.09.29

新型コロナワクチン接種に対する労務管理のポイントを紹介

企業には従業員の安全に配慮する義務があります。また労働力確保のためワクチン接種は合理的であり、早期収束のためワクチン接種に強力的な態度を取るのがおすすめです。

一方で副反応やワクチン接種に関するトラブルなどの懸念があることも事実。そこで今回はワクチン接種に関する労務管理のポイントについて紹介します。

新型コロナワクチン接種における現状

■被写体のワクチンはイメージです。

労務管理を正しく行うには、新型コロナワクチンの接種状況や、海外で発生したワクチン接種が原因で起こった労務トラブルなどを正確に把握しておく必要があります。

そこでまずは、日本で新型コロナワクチン接種がどの程度進められているか、また副反応としてどんな症状がどの程度発生しているかを詳しく紹介します。アメリカでの訴訟などもまとめていますのでぜひ参考にしてください。

新型コロナワクチン接種が64歳以下に引き下げ

防衛相が今年の6月に、新型コロナワクチン接種の対象年齢を65歳以上から大幅に引き下げ、18歳~64歳の人でもワクチンが接種できるようになりました。職域接種なども進められており、今後は企業内でもワクチン接種を行う人の数が加速していくことが予想されます。

これに伴い、ワクチン接種に絡む労務上のトラブル発生も予想されます。今回の記事を参考に事前に情報を収集し、必要に応じて制度を変更するなど柔軟な対応を行いましょう。

新型コロナワクチン接種による副反応に注意

新型コロナワクチン接種による主な副反応の症状として、疲労、頭痛、筋肉痛、関節痛、悪寒、発熱、下痢、吐き気などが確認されています。また約2万人に実施した新型コロナワクチンの接種後の健康状況調査によれば、2回目の接種後がより副反応が起きやすいと発表されています。

発生しやすい症状は、頭痛・倦怠感・発熱です。20代の発生率はそれぞれ50%を超えており、全身の倦怠感に関しては70%と非常に高い確率で発生しています。倦怠感が業務効率に影響を与えるのはもちろん、発熱と頭痛に関しては就業が難しくなる症状であることから、ワクチン接種に伴う欠勤にも対応する必要があるでしょう

アメリカでは接種拒否による解雇をめぐり訴訟に

CNNの報道によれば、アメリカ・テキサス州ヒューストンの病院に勤務する職員が、雇用条件として新型コロナウイルのワクチン接種を義務付ける措置を行ったことに反対し、病院を相手に裁判を起こしました。

原告側は接種拒否を理由とする解雇は不当だと訴えましたが、結果的に裁判所はこの訴えを棄却し、病院側が勝訴しました。日本においては結果いかんに関わらず裁判を起こされること自体が企業イメージに悪影響を与える可能性があります。

しかしこういったトラブル自体は今後日本で起こる可能性があるため、事前にトラブルを防ぐための対策が必要となるでしょう。

新型コロナワクチン接種は義務化できる?

アメリカでは新型コロナウイルスのワクチン接種を義務化する病院側の主張が認められていました。では日本の法律では新型コロナのワクチン接種を従業員に義務化できるのでしょうか?

そこで次に、日本の法律でのワクチン接種の位置づけや、義務化した場合に起こりうることなど、トラブルの発生しやすい部分について詳しく紹介します。

ワクチン接種の法的位置づけ

予防接種法の8条と9条には「市町村長が勧奨し、対象者は受けるように努める」と記載されています。つまり新型コロナウイルスのワクチン接種の法的な位置づけとしては「努力義務」であり、企業がそこに介入する余地はありません。

また政府が発表している新型コロナウイルスワクチンの接種に関するQ&Aでも「接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。」とあることから、企業が指示や命令ができるものではないと認識しておきましょう。

新型コロナワクチン接種拒否による解雇は無効

労働契約法15条と16条を参照すると、新型コロナウイルスのワクチン接種を拒否したことを理由に解雇や懲戒免職処分を行うと、権利の濫用と判断され無効となる可能性が極めて高くなります

内閣官房長官も記者会見で「接種の有無で不利益な扱いを受けることは適切ではない」と発現。企業としてもこの発言に従い、感情的にならず冷静な判断を行うことが迫られています。

ワクチン接種拒否によるパワハラにも注意

2020年6月1日にパワハラ防止措置が義務化(中小企業は2022年4月1日、それまでは努力義務)されましたが、これも新型コロナウイルスのワクチン接種と大きく関わっています。

ワクチン接種は努力義務であるため、企業が推奨することに問題はありません。

しかしこれが行き過ぎてしまうと、パワハラ防止法に定められた「パワハラ類型」に該当する恐れがあります。該当するものは「精神的な攻撃」「人間関係からの引き離し」「過大な要求」「個人の侵害」などです。

そのため企業で推奨する場合には、社内で執拗に推奨しない、もしくは威圧的にならないなど、パワハラにならない程度に実施することが大切になります。

新型コロナワクチン接種における休暇・給与のポイント

先ほども紹介したように、新型コロナウイルスワクチンを接種すると副反応が起こる可能性が高くなっています。そこで実際に副反応が起こった場合、どのように休暇制度を調整すべきかについて詳しく紹介します。

あわせて副反応が起こらなかった場合でもワクチン接種をするために休暇を取った場合の給与についても紹介していますので、ぜひチェックしてください。

ワクチン接種による欠勤に給与は発生する?

新型コロナウイルスのワクチン接種を行うかどうかは任意であり、実際の判断は従業員に任されています。そのためワクチン接種を休日ではなく、勤務日に行ったとしてもその離席時間は労働時間として換算されません。

ただし、企業でワクチン接種を推奨するのであれば、欠勤時間を労働時間と見なすことを検討するのもおすすめです。また副反応により体調を崩した場合に特別休暇を認める制度を整えることも大切です。

ワクチン接種における特別休暇制度の活用も有効

新型コロナウイルスのワクチン接種を企業で推奨する場合、従業員が安心して接種を受けられるよう、接種後に体調を崩した場合に利用できる特別休暇などを設けることが望ましいでしょう。

もし新設することが難しい場合は、既存の病気休暇や失効年休積立制度などを利用するのもおすすめ。失効年休積立制度とは、失効した年次の有給休暇を積み立てて、病気などで療養する場合に活用できる制度です。これらの制度の範囲を拡大するだけでも十分ワクチン接種のサポートになるでしょう。

奨励金・出勤みなしなども効果的

ワクチン接種のサポートとしては休暇制度のほか、奨励金や出勤みなしなども効果的です。従業員がワクチン接種の時間に離席することを認め、その分就業時間の繰り下げを行う「中抜け」や、ワクチン接種の時間に離席してもその時間を勤務したことに見なす「出勤見なし」などが利用可能です。

これらの制度にプラスして奨励金を与えるのも良いでしょう。ワクチンを接種すれば1万円が支給されるなどの制度を設けることにより、従業員がより積極的に接種しやすくなります。

またどんな制度によせ、従業員が周りに遠慮することなく、任意で利用しやすいように環境を整えることが大切です。就業規則を変更する場合は、事前に従業員の希望や意見などを集めて検討してみましょう。

新型コロナワクチン接種後の体調不良は労災になる?

先ほどから紹介しているように、新型コロナウイルスのワクチン接種はあくまで任意であり、接種の判断は従業員に任されていることから労災の対象にはなりません。

ただし、国の予防接種健康被害救済制度があり、こちらの対象にはなります。そのため従業員がワクチン接種により健康被害が生じた場合は、この救済制度の案内を行ってください。

医療従事者等のワクチン接種は労災になる

一般企業では、ワクチン接種により健康被害が生じても労災の対象にはなりませんが、医療従事者等は労災の対象になります。医療従事者の場合、業務の特性上新型コロナウイルスの感染者や汚染物などとの接触機会が非常に多くなります。

そのため医療従事者等の発症や重症化のリスクを軽減することは、医療提供体制を確保するためにも重要なことと考えられます。医療従事者等のワクチン接種の優先順位が上位に位置づけられていることも、この事実を裏付けています。

このことから医療従事者等のワクチン接種は、任意であるものの医療機関等の事業主が事業目的を達成するために必要なものと考えられます。労災は労働者の業務遂行のために必要な行為が対象となるため、ワクチン接種も労災の対象となります。

新型コロナワクチン接種拒否による差別への対応

ワクチンの接種は各人の判断に委ねられており、副反応もあることから接種に慎重な姿勢を示している人もいます。また諸事情により接種ができないケースなどもあります。その際に接種を拒否したことによる周りからの差別が発生する危険もあるでしょう。

そこで最後に企業内で起こりうる、これらのワクチン接種拒否による差別に対し、どのような対処を行うべきかを詳しく紹介します。

ワクチン接種ができないケースを周知させる

まずワクチン接種は、体調や持病により接種ができない人も存在します。接種ができない例は以下の通りです。

  • 37.5℃以上の発熱をしている
  • 重い急性疾患にかかっている
  • ワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある
  • そのほか予防接種を受けるに不適切な状態にある

またこのほかにも免疫不全の診断を受けた人や、基礎疾患を持つ人、直前にアレルギー症状が発生している人などはワクチン接種に注意が必要だとされています。まずはこれらの接種ができないケースを企業内で周知を行いましょう。詳しい内容については以下のサイトでチェックしてください。

厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A

ワクチン接種はあくまでも任意によって行われる

もう1つ周知させておきたいのは、ワクチンの接種は任意で行われているということ。接種を受けていないことを理由にいじめや差別的な扱いをすることは許されるものではありません。特に事業者や管理者はこのことを念頭に置き、従業員へ細やかな配慮を行いましょう。

また政府ではこれらのいじめや差別に対し、人権相談窓口や総合労働相談コーナーで相談を受け付けています。もしトラブルが起こった場合はこちらへ相談してみましょう。

法務省:人権相談窓口

厚生労働省:総合労働相談コーナー

新型コロナワクチン接種がしやすい環境づくりを

今回は新型コロナウイルスのワクチン接種における労務管理のポイントや注意すべきことについて詳しく紹介しました。ワクチン接種により労務上のリスクや負担は大きくなりますが、安全配慮義務の遂行や労働力確保のためには必要であるため、積極的に行いましょう

またワクチン接種に伴う労務管理で不明な点がある方は、専門家に相談するのがおすすめです。社会保険労務士法人ロームでは、人事労務に関するさまざまなサポートを行っていますので、ぜひご相談ください。

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