2021年1月から始まった改正育児介護休業法では、子の看護休暇と介護休暇に関する規定が従来の制度から変わりました。子の看護や家族の介護をしなければいけない場合に、より柔軟により多くの労働者が休暇を取れるようになった点が改正法のポイントです。
休暇制度を社内で整備してうまく活用すれば、従業員が仕事と家庭を両立できてその能力を十分に発揮できるようになります。育児介護休業法が定める子の看護休暇・介護休暇の趣旨や制度内容を理解し、働きやすい職場環境を作って企業の生産性アップにつなげましょう。
子の看護休暇・介護休暇とは?
子の看護休暇と介護休暇は、子の看護や家族の介護が必要な労働者が利用できる休暇制度です。育児介護休業法に規定され、労働者が事業主に申し出れば休暇を取得できます。
2021年1月からの改正点について確認する前に、そもそも子の看護休暇と介護休暇が一体どのような制度なのか、まずは制度概要について確認しておきましょう。
子の看護休暇|小学校就学前の子が対象
子の看護休暇とは、子が怪我をした場合や病気になった場合などに労働者が取得できる休暇です。子育てをしながら働き続けられるように子の看護休暇が設けられています。
小学校就学前の子を育てる労働者が対象で、法定の休暇取得日数は1年度につき子が1人の場合は5日まで、2人以上いる場合は10日までです。5日や10日はあくまで法律で定められた最低限の日数であるため、法律を上回る日数の休暇を取得できる制度を導入しても構いません。
実際に病気にかかった場合だけではなく、子に予防接種や健康診断を受けさせる場合のように「疾病の予防を図るために必要な世話」をするケースも看護休暇の対象です。子の看護は緊急の場合が多く、当日に電話等で申出があった場合でも休暇取得を認める必要があります。
介護休暇|要介護状態の家族が対象
介護休暇とは、要介護状態にある家族の介護や世話を行う場合に労働者が取得できる休暇です。介護をしながら働き続けられるように介護休暇が設けられています。
介護や世話の対象となる家族は配偶者や父母、子、配偶者の父母など一定の家族で、法定の休暇取得日数は1年度につき対象家族が1人の場合は5日まで、2人以上いる場合は10日までです。子の看護休暇と同様、法律を上回る日数を取得できる制度を導入しても構いません。
介護休暇の取得方法は書面の提出に限定されないため口頭での申出も可能で、当日に電話等で申出があった場合でも取得を認める必要があります。
2021年から休暇取得単位と対象者が変更
2021年1月から施行された育児介護休業法では、子の看護休暇と介護休暇における「取得単位」と「対象者」の2点が改正されました。休暇の取得単位が半日から時間に変わり、従来は対象外であった「所定労働時間4時間以下の労働者」も休暇の取得対象者に含まれます。
従業員から休暇取得の申出があった場合に適切に対応できるよう、経営者や人事担当者は育児介護休業法の規定を正しく理解しておくことが大切です。
時間単位で休暇取得が可能に
これまで子の看護休暇や介護休暇は1日単位または半日単位で休暇を取得する制度でしたが、法改正により2021年1月以降は1日単位または時間単位での取得に変わります。労働者からの申出に応じて、本人が希望する時間数で取得できるようにしなければいけません。
育児介護休業法上の時間とは1時間の整数倍の時間を指し、始業の時刻から連続した時間または終業の時刻まで連続する時間です。そのため法律では、就業時間の途中から休暇を取得して就業時間の途中に戻る「中抜け」までを認めることは求めていません。
ただし労働者の事情に柔軟に対応できるよう、中抜けありの休暇制度を認める配慮が必要です。
所定労働時間が4時間以下の労働者も対象に
所定労働時間が4時間以下の労働者の場合、従来の制度では子の看護休暇や介護休暇の対象外でしたが、2021年1月からは休暇取得の対象になりました。
日々雇用される者が休暇取得の対象外である点と、1週間の所定労働日数2日以下の労働者や雇用期間が6ヶ月未満の労働者を労使協定で対象外にできる点は従来と変わりません。2021年1月以降は、これらの労働者を除く者が子の看護休暇と介護休暇の対象です。
ただし時間単位での休暇取得が困難な業務がある場合には、労使協定を締結すれば該当業務に従事する労働者を休暇取得の対象外にできます。時間単位での休暇取得が困難な業務とは、例えば次のような業務です。
- 国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務で、所定労働時間の途中まで、または途中から休暇を取得させることが困難な業務
- 長時間の移動を要する遠隔地で行う業務であって、時間単位の休暇を取得した後の勤務時間、または取得する前の勤務時間では処理することが困難な業務
- 流れ作業方式や交替制勤務による業務であって、時間単位で休暇を取得する者を勤務体制に組み込んで業務を遂行することが困難な業務
取得単位「時間」の考え方と実務上の注意点
子の看護休暇や介護休暇は、1日単位または時間単位で取得できます。労働者が上限日数分の休暇を取得したかどうかを判定する際、時間単位で取得した分については1日単位に換算し直さなければいけません。
育児介護休業法が定める子の看護休暇や介護休暇を職場で実際に運用する場合、企業の経営者や人事担当者にとってポイントになるのが取得単位である「時間」の考え方です。
以下では休暇取得における時間と日数の関係や実務上の注意点を解説します。
休暇取得1日分の計算方法
休暇取得日数の計算では次の点がポイントになります。
- 時間単位で子の看護休暇や介護休暇を取得する場合、取得時間の合計が1日の所定労働時間数に相当する時間ごとに1日分の休暇取得として扱う。
- 1で用いる1日の所定労働時間数に1時間未満の端数がある場合はその端数を切り上げる。
- 子の看護休暇や介護休暇として1日の勤務時間すべてを休む場合は1日分の休暇取得として扱う。
例えば所定労働時間が7時間30分の場合、丸1日休むと7時間30分で1日分になります。
しかし時間単位で休暇を取る場合、1時間未満の端数を切り上げるため7時間30分ではなく8時間が1日分の時間です。そのため1日単位で休暇取得するよりも休暇時間が実質的に30分増える計算になります。
実務においては、1日単位で休む場合と時間単位で休む場合で1日分にあたる休暇時間が異なるケースがある点に注意してください。
日によって所定労働時間が異なる場合
日によって所定労働時間が異なる労働者の場合、休暇取得日数の計算では次の点がポイントになります。
- 時間単位で子の看護休暇や介護休暇を取得する場合は、1日の平均所定労働時間数を1日分として扱う。
- 休暇を取得する日の所定労働時間数と同じ時間数の休暇を取得する場合は、1日単位での休暇取得として扱う。
例えば1日の平均所定労働時間が7時間の労働者が6時間の休暇を取る場合、休暇を取る日の所定労働時間によって次のように異なるパターンが考えられます。
下図のケース①は所定労働時間が6時間の日に丸1日休む場合、ケース②は所定労働時間が8時間の日に6時間休む場合です。ケース①では1日分の休暇を取得したことになるため残りの日数は4日ですが、ケース②では残り4日と1時間の休暇を取得できます。
ケース①では平均所定労働時間より1時間少ない時間しか休暇を取得していませんが、ほかの日に追加で1時間多く休めるわけではありません。丸1日休んだ場合には1日分の休暇取得として扱う点に注意してください。
時間単位の区切り方
子の看護休暇や介護休暇の取得時間に休憩時間は含まれません。休憩時間を除き、実際に労働に従事する時間帯で見て休暇取得の時間を計算します。
例えば始業時刻が8時30分、始業から4時間にわたって子の看護休暇を取得する場合、昼休憩の時間が12時から13時までであれば、休暇取得時間は下図のように13時30分までです。
また時間単位とは、始業時刻から連続した時間または終業時刻まで連続する時間の単位を指します。そのため例えば終業時間が17時45分の労働者が1時間の休暇を取得する場合、終業時刻から1時間遡った16時45分が休暇取得の開始時間になります。
実務においては、例えば労働者が1時間の休暇取得の申出をした場合に実際は1時間に満たない時間しか休まないケースがあります。この場合は当該労働者が1時間の休暇を取得したものとして扱って問題ありません。
ただし労働者が休んだ時間分の賃金を控除する場合には、実際に休んだ時間を超えて控除してはならないため、実際に休んだ時間を基準に控除を行ってください。
法改正対応がまだの場合は早急に対策を
2021年1月の改正育児介護休業法の施行に伴い、就業規則の改定が必要になる場合があります。また時間単位での休暇取得が難しい業務に従事する労働者を除外するには労使協定を締結しなければいけません。
制度改正にあわせて必要になるこれらの対応は、すべて適切に終えられているでしょうか?自社の就業規則が旧法に基づく内容のままになっているなど、法改正対応がまだの場合は早急に対策を行う必要があります。
ここでは法改正対応におけるポイントを紹介しますが、対応方法がよく分からずお困りの場合は社会保険労務士法人ロームにお気軽にご相談ください。
必要に応じて就業規則の改定を実施
育児介護休業法が定める子の看護休暇や介護休暇は、就業規則を作成する際に記載しなければいけない絶対的必要記載事項のひとつです。休暇取得の対象者や期間などを就業規則に記載する必要があります。
就業規則に記載している場合でも、改正前の法律の内容にあわせて「休暇を1日単位または半日単位で取得できる」などと記載されたままでは問題があるため、このような場合は早急に就業規則の改定を行うようにしてください。
法改正前から時間単位での休暇取得を認めていた場合など就業規則の改定が不要のケースもありますが、法改正対応に漏れがないかどうかを今一度確認しましょう。
時間単位が難しい業種は労使協定で除外
時間単位での休暇取得が難しい業務に従事する労働者は、労使協定を結べば休暇取得対象から除外できます。どのような業務を除外するかを会社側が一方的に決めるのではなく、労使で十分に話し合った上で決めるようにしてください。
労使協定によって除外された労働者については、法改正前と同じく半日単位での休暇取得を認めるような配慮が必要です。
不利益変更になる場合は労使合意が原則必要
法改正対応で注意しなければいけないのは、労働者から見て不利益な変更にあたるケースです。例えば法改正前に30分単位での休暇取得を認めていた場合に、改正法の内容にあわせて1時間単位での休暇取得に社内制度を変えるのであれば不利益変更にあたります。
それまでの制度を変更して労働者にとって不利益な内容に変える場合には、原則として労使間で協議して合意しなければ変更できません。労働契約法の規定により、使用者側からの一方的な変更は基本的に認められない点に注意してください。
休暇を取得しやすい職場環境づくりが大切
子育てや介護と仕事を両立して従業員がその能力を十分に発揮できるよう、働きやすく休暇を取得しやすい職場環境を整えることが大切です。従業員が働きやすいと感じて意欲的に業務に取り組めれば生産性が上がり、優秀な人材の確保や離職防止につながります。
今回は2021年1月に施行された改正育児介護休業法について紹介しました。働き方に関する法律の改正が今後も予定されているため、法改正が行われる時期や改正内容を確認して早めに対応を行いましょう。
社会保険労務士法人ロームでは、就業規則の作成や変更、助成金の活用などさまざまなサポートを行っています。法改正対応等でお困りの場合にはお気軽にご相談ください。