最近の日本では、経営者の高齢化によって廃業する企業が増えて社会問題になりつつあります。
政府が優良な企業を残すため「M&A」の支援に力を入れ始めたこともあり、日本でも徐々に「企業買収」による事業承継の案権数が増えてきました。
- 他社の買収により自社事業の幅を広げたい
- 販路を拡大したい
- 自社を飛躍的に成長させたい
そんな経営者には「追い風」が吹いているといえるでしょう。
企業買収(M&A)を進める際には、買収の流れや注意点をおさえておくと安心です。
今回はM&Aの基本的な流れや注意点を解説します。
企業買収に関心のある経営者さまは、ぜひ参考にしてみてください。
1.M&Aとは
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の合併と買収を意味します。
たとえばある会社が他の会社を買収し、対象企業の持つ事業や財産を自社のものとします。会社ごと買い取るので、その会社の持つ販路、従業員、許認可、スキルやノウハウなどまとめて取得できます。
対象企業が自社にない技術や素晴らしい従業員、設備や研究、知的財産権などの財産を保有している場合、M&Aは自社の発展に非常に有用です。
日本では、2025年までに「3社に1社が廃業の危機を迎える」ともいわれています。その多くは「経営者の高齢化」によって廃業をやむなくされる状況で、経営状況が悪いわけではありません。廃業企業の約半数は黒字の優良企業ともいわれています。
自社の発展に寄与しそうな企業が見つかったら、ぜひM&Aによる買収を検討してみてください。
2.M&Aで会社を買うメリット
M&Aによって他社を買収すると以下のようなメリットがあります。
2-1.シナジー効果で飛躍的な発展
M&Aに成功すると「シナジー効果(相乗効果)」が発生します。シナジー効果とは、相性の良い2つの企業が一体となることで生じる「1+1」を超える結果です。
たとえば近接業種が一体となると、それぞれの事業が飛躍的に発展する可能性があります。
「素晴らしい商品があるけれど販路を持たない企業」を「営業が得意でも取扱商品がイマイチな企業」が買収すると、高い営業力を駆使して極めて高い売上げを得られるでしょう。
このように、M&Aではシナジー効果によって事業を飛躍的に発展させられる可能性があります。
2-2.コストカット(設備投資、研究投資)
自社で一から設備投資や研究のための投資を行うと、成果を得られるまでに大変な時間がかかります。失敗する可能性もあるでしょう。
始めから充実した設備や研究施設、研究結果をもっている企業を買収すれば、自社で一から投資して育てる時間や労力のコストをカットできます。
2-3.許認可や知的財産権、人材、ノウハウの引継ぎ
対象企業に自社の求める人材やノウハウ、知的財産権や有用な許認可などが備わっていれば、買収するだけで目的を達成できます。
2-4.海外進出が容易になる
M&Aは海外進出を目論んでいる方にも有用です。海外に進出する場合、通常なら現地の法律や制度などの事前調査から始めなければなりません。ノウハウを蓄積するまでにたくさんの失敗を重ねるケースも多く、最終的に成功するとも限りません。
すでに海外進出に成功している企業を買収すれば、こうしたコストやリスクをすべてカットできます。
2-5.優良企業を廃業から救う社会的な意義
今、日本では経営者の高齢化によって多くの優良中小企業が廃業の危機に追い込まれています。企業が消滅すると日本全体の活気が失われ、消費も低迷します。残った企業の業績にも悪影響を避けられません。
M&Aによって優良企業を廃業から救うことは、日本社会を支える意義を持ちます。ひいては将来の自社利益を守ることにもつながるでしょう。
M&Aは、極めて高い可能性を秘めています。資金的に余裕があるなら、自社発展と日本社会のため、ぜひ企業買収を検討してみてください。
3.M&Aの流れ
M&Aを行うときには、以下のようにして進めましょう。
3-1.M&A仲介会社へ相談
他社を買収したいと思っても、膨大な企業の中から自社で適切な取引相手を探すのは困難です。またM&Aには交渉や契約締結なども必要で、専門的な対応を要します。
そこでM&Aの専門家や専門業者に相談しながら進めるのが一般的です。まずはM&Aの仲介会社を選定し、対象企業の紹介や資料提供、話し合いの主導などを依頼しましょう。
M&A仲介会社にもいろいろあるので、自社の希望する案件に適した業者を選ぶ必要があります。重要なのは「業種、業界や規模感」です。
自社や対象企業の属する業種や業界に詳しく、規模的にも希望に近い案件の取扱い実績の高い業者を選ぶと失敗しにくいでしょう。
3-2.M&A仲介会社と契約する
依頼したいM&A会社が見つかったら「秘密保持契約」と「仲介業務契約」を締結します。
M&Aの際には自社の重要な機密情報を提供するので、「秘密保持契約」が必要です。仲介業務契約は、対象企業の選定や交渉などの業務を依頼するための契約です。
3-3.対象企業の選定
M&A仲介会社と契約したら、買収対象の企業を選定します。M&A仲介会社がリストアップするので、その中から関心のある企業を絞っていきます。
3-4.ノンネームシートによる提案を受ける
M&A仲介会社は「ノンネームシート」によって対象企業からの提案を示します。ノンネームシートとは、企業名が書かれていない匿名の提案書です。企業の業種や規模、概要などが書かれており、買い手企業が話を前に進めるかどうか判断する参考資料になります。
いくつかの企業のノンネームシートを確認し、「これは」という企業が見つかったら「ネームクリア」を打診しましょう。ネームクリアとは、対象企業の名称を開示してもらい、より詳しい情報提供を受けることです。
3-5.ネームクリア
買い手企業が強い関心を示したら、M&A仲介会社が売り手企業に確認した上でネームクリアを行います。買い手企業はその情報を見てさらに話を進めたいかどうか検討します。
3-6.トップ面談
買い手企業と売り手企業が互いに関心を示し、M&Aを前に進める場合には「トップ面談」を実施します。トップ面談とは、経営者同士の顔合わせです。M&A仲介会社が席を用意するので、経営者同士が出席して話をします。トップ面談で経営者がお互いに良い印象を持てると、M&Aが一気に成約へと近づきます。
3-7.意向表明書と条件交渉
トップ面談後、買い手企業が買収を進めたい場合には「意向表明書」を提示します。ここには買収条件やスケジュールなど買い手企業の希望や意向を記載します。
その上で条件交渉を行い、企業価値査定額をもとに売買価額を取り決め、従業員の引継ぎや売り手経営者の処遇、債務の引継ぎなどの必要事項について決定していきます。
またこのとき、M&Aのスキームも決めます。スキームとは、M&Aの法的構成です。中小企業のM&Aでは「株式譲渡」や「事業譲渡」のどちらかになるケースが多数です。
それぞれメリットとデメリットがあるので、状況に応じた方法を選択しましょう。
3-8.基本契約の締結
条件が整ったら「基本契約」を締結します。基本契約とは「これからM&Aを行います」というM&Aの基礎となる契約です。買収方法、買収価額、今後のスケジュールや秘密保持、独占交渉権などの事項を定めましょう。
基本契約締結後は、売り手企業は他社との交渉ができなくなるので、買い手としては余裕をもってM&Aに対応できる状態になります。
3-9.デューデリジェンス
基本契約を締結したら、売り手企業の「デューデリジェンス」を実施します。デューデリジェンスとは、企業の精査です。
基本契約前にも売り手企業から情報開示されていますが、その内容は限定的です。実際にはさまざまなリスクを抱えている可能性があるので、専門家を入れて精査し、リスクがないことを確認します。
デューデリジェンスには以下のような種類があります。
①財務デューデリジェンス
企業の財務状況に関する調査です。簿外債務や不正会計が行われていないかなど、確認します。
②税務デューデリジェンス
税金の滞納がないか、これまで税務調査で指摘されたことがないかなど調べます。
③人事デューデリジェンス
どのような人材がいるのか、離職率が高くないかなど、人事面からの調査を行います。
④法務デューデリジェンス
知的財産権、許認可関係、訴訟などの法的トラブルがないか、法的なリスクを調査します。
⑤ITデューデリジェンス
導入しているIT環境について調査します。どういったソフトやシステムを利用しているか、情報管理体制、情報漏えいなどの脆弱性がないかなどを確認します。
デューデリジェンスの範囲について
中小企業のM&Aでは、必ずしも上記のすべてのデューデリジェンスを行うとは限りません。財務デューデリジェンスは必須ですが、法務、人事やITデューデリジェンスなどは行われないケースもよくあります。全部実行すると高額な費用が発生する事情も影響しています。
ただ、デューデリジェンスを行わないと思わぬリスクが発生する可能性があります。安易に省かず必要に応じて実施しましょう。
3-10、最終条件交渉
デューデリジェンスが終了したら、最終的な条件交渉を行います。デューデリジェンスの結果、特に問題がなければ基本契約において取り決めた事項と大きく変更されることはないでしょう。
一方、デューデリジェンスで不都合な事実が発覚したら、その分価格を減額したりリスクを抑え込むための別の条件をつけたりする必要があります。あまりにリスクが大きい場合には、M&A自体を取りやめる可能性も考えなければなりません。
一般的には以下のような事項を取り決めます。
- 売買価額
- 従業員
- 社長の処遇
- 譲渡代金の支払い方法
買収後に「こんなはずじゃなかった」と不利益を受けることのないように、慎重に対応しましょう。
3-11.最終契約締結
条件交渉が済んだら最終契約を締結します。最終契約は、スキームに応じて「株式譲渡契約」または「事業譲渡契約」となります。
3-12.クロージング
最終契約を締結したら、後はクロージング(決済や引き渡し)を行ってM&Aを終了します。株式譲渡なら株式の名義変更をしてもらい、期日までに代金を支払います。
事業譲渡なら事業を引き受けます。
クロージング後は買い手企業が売り手企業の新たなオーナーとなるので、自社の既存の事業と合わせて経営者の裁量で発展させていきましょう。
4.M&Aで企業買収を行う際の注意点
M&Aを利用して他社を買収するときには、以下の点に注意しましょう。
4-1.負債の引継ぎ
企業を買収すると、負債を引き継ぐのが通常です。株式譲渡なら会社ごと買い取るので、簿外債務も自然に引き継いでしまうことになります。
しっかりデューデリジェンスを行うのはもちろんですが、デューデリジェンスでも発見できない負債も存在します。事業譲渡なら簿外債務を引き継がないので、不安のあるケースでは株式譲渡ではなく事業譲渡を利用するのがよいでしょう。
また売り手企業の経営者が個人保証している場合、買い手企業経営者が保証債務を引き継ぐのが一般的です。債務者の変更には金融機関の了承が必要になるので、買い手企業経営者が金融機関からの信頼を得る必要もあります。
4-2.人材、顧客流出のリスク
M&Aの際、売り手企業から人材や顧客が流出するリスクに注意しましょう。従業員が不安を感じて離職してしまうケースがありますし、社名や経営者が変わったことで顧客が離れる可能性もあります。
退職者を生まないように従業員の処遇に配慮し、売り手企業側にも対応を求めましょう。また顧客が離れないように世間への開示方法やタイミングに注意すべきです。
4-3.情報管理
「M&Aを実施する」という情報が先行すると、自社や相手企業の業績、信用などに影響し、従業員の離脱につながる可能性もあります。M&Aの進行中は情報管理を徹底し、あまり早期に発表するのは控えましょう。
4-4.シナジー効果の見極め
M&Aの成否を分けるのは「シナジー効果」です。期待していたほどのシナジー効果を得られないと、高額な資金を出して買収する意味が半減します。
自社との融合によって本当にシナジー効果を得られるのか、対象企業の開示資料を精査してじっくり検討しましょう。
感覚で判断するのではなく、数字をつきあわせてどのようなシナジー効果を得られる見込みがどのくらいあるといえるのか、論理的に判断するようお勧めします。
4-5.税金
M&Aを実施すると、不動産取得税や消費税などの税金がかかる可能性があるので、事前にシミュレーションしておきましょう。
4-6.デューデリジェンスの重要性
M&Aではデューデリジェンスが非常に重要です。しっかりデューデリジェンスをしておかないと、買収後に大きなリスクを抱えてしまうでしょう。
現実には高額な費用や手間がかかるため、中小企業のM&Aでは必要最低限に抑えられるケースが多くなっています。「デューデリジェンスを行っても結局不備がなかったので、費用が無駄になった」と考える経営者の方も少なくありません。
しかし「不備が見つからなかった」という結果自体が「安心してM&Aを行える」保証となります。クロージング後に後悔しないため、ある程度費用をかけてもしっかりと行っておくようお勧めします。
4-7.事業譲渡か株式譲渡か
中小企業のM&Aでは、事業譲渡または株式譲渡を利用するケースが多数です。
株式譲渡は会社をそのまま譲り受けるので、従業員や契約、許認可、知的財産などすべて引き継げます。ただし簿外債務を引き継ぐなどのリスクも発生します。
事業譲渡の場合、簿外債務を引き継ぐ可能性はありませんが、個別に契約の引継ぎが必要となって手間がかかります。
どちらが自社にとって利益となるのか、状況に応じて適切に判断しましょう。
たとえばある程度以上の規模の大きな案件なら株式譲渡が簡便です。簿外債務が心配なら事業譲渡を利用するのが良いでしょう。
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まとめ
M&Aで企業を買収すると、シナジー効果によって自社を飛躍的に発展させられる可能性があります。ただし見極めを誤ったりデューデリジェンスが不十分であったりすると、思わぬ不利益を受けるリスクも発生します。
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