社長さまや人事担当の方にとって、”解雇“は苦渋の決断で、最も社長さまの頭を悩ませる事柄だと思います。
しかし、会社の事業を継続していくためには、従業員を解雇するということも、ときには必要な場合がでてくることも事実です。
また、解雇をしないことで会社の事業の継続ができなくなり、会社がつぶれてしまえば、多くの従業員を路頭に迷わせてしまうこともあるでしょう。
解雇は事業の継続または、従業員の生活を守るために、ときには必要になるのです。
しかし会社にとって必要と考えた解雇でも、従業員から訴えられた場合、基本的には会社側が不利で、裁判に負ける可能性の方が高いです。
ただし、ルールに従って手順通り“解雇”を進めていけば、会社が裁判で負ける可能性を低くできます。
今回は会社にとって難しい問題である「解雇」について専門家である社労士が“会社目線”で解説していきます。
※この記事は現在社労士として活躍している方にも見てほしいと思っています。是非一緒に“日本の会社を元気”にしていきましょう。
また、この記事については、社労士からのお問い合わせも受け付けています。
解雇の種類について
「解雇」と言っても1つではなく、次の4つの種類があります。
①懲戒解雇 従業員が行った“問題行動”に対して会社が行う“罰”としての“解雇”
②諭旨解雇 会社が問題を起こした従業員のために「懲戒解雇という重大な処分は避けてあげよう」
と思ったときに行う解雇
③普通解雇 懲戒解雇より一段階くらい軽い“罰としての解雇”
④整理解雇 会社側の経営状態が悪いことを理由として行われる解雇
懲戒解雇について
懲戒解雇とは、従業員が行った“問題行動”に対して会社が行う“罰”としての“解雇”で、社内に知らしめることで会社の秩序を維持することも目的にしています。
刑法でいえば「死刑」に当たるような、とても重い処分です。
懲戒解雇は“解雇予告除外認定”を労働基準監督署からもらえば、解雇の予告をしなくても、従業員を“即日”解雇できます。
懲戒解雇をされた従業員は、辞める前に年次有給休暇を使うことができません。さらに就業規則等に定めれば、従業員が退職金を受け取ることを制限できます。
2‐1.懲戒解雇と普通解雇との違い
懲戒解雇は、問題を起こした従業員に対し会社が重い処分をすることで、会社の秩序を維持するという目的があります。
一方、普通解雇は、従業員の雇用契約を終わらせることだけを目的としています。
具体的にお伝えすると、
懲戒解雇は、転勤の拒否や、横領、セクハラ・パワハラなどを行った従業員に対して行われ、普通解雇は従業員の能力不足や、経営難による人員整理などで行われます。
このように、懲戒解雇は普通解雇よりも処分が重いため、解雇事由の範囲は普通解雇より狭くなっているという特徴があります。
2-2.懲戒解雇の判断基準と注意点
懲戒解雇の前に確認しておきたいこと
懲戒解雇は、あとから従業員に「不当解雇」と言われて訴えられるケース多いです。そのため、会社は懲戒解雇をする際に、次の2点に注意して行う必要があります。
①解雇事例が懲戒解雇が認められるケースであるか?
②解雇事例が就業規則や雇用契約書・労働条件通知書にしっかり記載されているか?
懲戒解雇が認められるケースは以下のような場合です。
・職場で傷害事件を起こした
・職場外で、会社の名誉を大きく悪くさせる重大な犯罪を起こした
・自分の経歴を大きく偽った
(例えばトラックの免許を持っていないのに、持っていると偽って採用された等)
・重大なセクハラやパワハラをした
・出勤停止などの重い懲戒処分をしても、仕事でまた同じような問題行動を起こした
上記理由での懲戒解雇は、裁判で負けないために「就業規則」や「雇用契約書・労働条件通知書」にしっかり書いてあることが必要です。
上記2点を確認し、問題がなければ実施します。
2-3.懲戒解雇の手順
懲戒解雇をする手順については、5つのことを順番に実施する必要があります。
①従業員の問題行動を調査する
②従業員に対して、弁明する機会をつくる
③懲戒解雇通知書を発行する
④従業員本人に懲戒解雇であることを伝える
⑤社内で懲戒解雇を行ったことを周知する
注意点は、この手順は省略できないことです。省略してしまうと、会社に落ち度があるとして「不当解雇」になってしまうリスクが高まります。
懲戒解雇については、あとから従業員に訴えられないように手順通りに正しく行いましょう。
2-4.解雇予告除外認定をもらうには?
解雇予告除外認定とは?
上段で、懲戒解雇の際、手順は省略できないと説明しましたが、解雇予告除外認定が取れた場合は、即日解雇が可能になり、手順の省略が可能になります。
この認定を受けるためには、労働基準監督署へ「解雇予告除外申請書」の提出が必要になります。
解雇予告除外認定申請書とは?
解雇予告除外認定申請書とは、会社側が「この解雇はやむを得ない理由だから解雇の予告はいならいよね?」という認定を労働基準監督署にもらうための申請書です。
以下が解雇予告除外認定申請書の見本です。
出典:東京労働局 様式集 労働基準法関係 解雇予告除外認定申請書
会社を経営する上での見通しの失敗や、資金不足などの理由では解雇予告除外認定をもらうことはできません。
“解雇予告除外認定”が認められるケースは、以下のような場合です。
-
従業員が職場内で、傷害事件やお金の横領をした会社の備品を盗む等の刑事犯罪を行った。
-
違法な賭博行為などをして職場の風紀を乱した
-
採用の決め手となるような、自分の経歴について嘘をついた
-
2週間以上の無断欠勤をして、会社が出勤するように促しても無断欠勤を続けた
-
遅刻や早退が多く、何度も注意したが改善されない
以上のような理由であれば認められるでしょう。
解雇の理由が正当でも、その理由を証明する証拠も必要です。
従業員の問題行動を証明するための証拠としては、始末書等の書類が有効です。
理由と証拠により基準をクリアした場合であれば、申請から一週間~二週間後に“解雇予告除外認定”が認められます。
「解雇予告除外認定」の注意点
「解雇予告除外認定」は労働基準監督署という国の機関が出す「解雇予告をしなくてもいいよ」という手続きを免除することに対してだけの認定です。
「会社側の解雇は正しいですよ」と認定されたわけではないので、訴訟などのトラブルになったときに「解雇予告除外認定」を受けていることを理由に、解雇の正当性を主張することはできません。
つまり、解雇予告除外認定申請書とは、会社が解雇予告や解雇予告手当を免除してもらうためだけに労働基準監督署に提出する申請書なのです。
諭旨解雇について
諭旨解雇とは、問題を起こした従業員に対して行う処分です。
それまでの実績や本人の将来などを考えて、懲戒解雇よりもほんの少しだけ処分を軽くしたものです。
会社が従業員のために、「懲戒解雇という重大な処分は避けてあげよう」と思ったときに行う解雇なのです。
法律用語ではありませんが、一般的に広く使われている言葉です。(解雇の種類を分類する場合、諭旨解雇を懲戒解雇の一種と数えて、解雇は“3種類”であるとする場合があります)
諭旨解雇は、まず従業員本人に自主退職を求めます。
しかし、従業員が決められた期日内に辞表を出さなければ、懲戒解雇にするという条件を付けるのです。
そのため、諭旨解雇をするときも、しっかりとした“客観的に正当な解雇理由”が必要になります。
普通解雇について
4‐1.普通解雇とは?
会社側が何らかの理由で、従業員の意思にかかわらず雇用契約を一方的に破棄するものです。
普通解雇をする“何らかの理由”とは、無断欠勤や遅刻が多い・能力が大きく不足している・病気で働けないなどになります。
普通解雇は、懲戒解雇より一段階くらい軽い“罰としての解雇”と考えると想像しやすいと思います。
そして普通解雇については、30日以上前からの解雇予告か解雇予告手当の支払いが基本的には必要です。
また、従業員に対しては、退職金も支払いも行います。
しかし、普通解雇は、従業員から「不当解雇」と言われるリスクが高い解雇です。
そのため、どのような従業員なら「普通解雇」ができるかを、しっかり確認しておくことが重要です。
4-2.普通解雇を行う場合の判断基準
普通解雇にできる従業員について、法律には具体的な基準がありません。
法律では、抽象的な表現で“客観的合理性”と“社会的相当性”があれば会社は、従業員を解雇してもいいと書いてあるだけです。
客観的合理性とは「解雇の理由は事実か?」ということと「会社以外の人が考えても、解雇の理由は正しいものなのか?」という判断基準になります。
社会的相当性とは、「他の会社でも同じようなケースで解雇になっているか?」「従業員の起こした問題は、本当に解雇になるような重大なことか?」などが判断基準になります。
以下が、この“客観的合理性”と“社会的相当性”について書かれている労働契約法の第16条の内容になります。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
では、具体的にどのような場合に、「普通解雇」ができるのでしょうか?
4-3.普通解雇に該当するケースとは?
精神や身体に障害がある・勤務成績が特に悪い・非常に協調性に欠けているなどの理由があれば「普通解雇」にできます。
ただし、上記のような理由だとしても、就業規則や労働条件通知書・雇用契約書に、解雇の理由として書かれていなければ解雇する正しい理由にはなりません。
就業規則や労働条件通知書・雇用契約書に書かれていない理由で「普通解雇」をしてしまうと、「不当解雇」で訴えられるリスクがかなり高くなります。
4-4.不当解雇にならないための手順
従業員を解雇するときは、正しい手順で行わなければいけません。これは、普通解雇も懲戒解雇も共通して注意していただきたい点です。
特に普通解雇は手順が多いので、時間がかかるのが特徴です。
従業員にいきなり「明日から来なくていいよ」とか「今月末でクビ」とは言えません。
また中小企業でよくある、危険な事例があります。
「いつもは従業員をだいたいこれくらいで、クビにしている」という、会社独自の社内規則で解雇を行っている場合です。
今までは、会社側の言い分で従業員が納得していたため、トラブルに発展しなかったかもしれません。しかし、ある日突然、従業員から訴えられてしまうのです。
従業員から訴えられないためには、どうすればいいのでしょうか?
その答えは「正しい手順を行う」です。
1.まず何度か口頭で注意する
2.口頭の注意でも改善されない場合、始末書を書かせる。 これを2回~3回繰り返す。
3.始末書を何度か書かせても改善されない場合は、減給や出勤停止など比較的重い懲戒処分をする。
4.懲戒処分をしたときは、次に同じことをしたら「解雇」の可能性があることを、懲戒処分通知書に書いておく。
5.懲戒処分をして指導した後も、改善が見られなければ「解雇」する
上記のような手順が必要になります。
このように、普通解雇は手順が多く、時間がかかります。
もし、普通解雇を行う場合には、いきなり「明日から来なくていいよ」とか「今月末でクビ」とは言わないように気を付けて、手順を守り時間をかけて行いましょう。
整理解雇について
5‐1.整理解雇とは
整理解雇とは、会社側の経営状態が悪いことを理由として行われる解雇です。経営状態という会社側の都合なので、法律で厳しく制限されています。
そのため、正しい方法で整理解雇をしないと、裁判になったとき会社側が大きく不利になってしまいます。裁判のときに、会社側が不利にならないための正しい方法についてお伝えします。
5‐2.整理解雇の手順
整理解雇の正しい方法は、まず整理解雇を実施する前に次の“3つ”をすることです。
①派遣社員や期間契約社員を削減して、正社員の希望退職を募る
②解雇対象者の基準・解雇の時期などについて社内で決める
③従業員と話し合いを実施する
そして、有効な整理解雇となるためには、更に次の4つの条件もすべて満たさなければいけません。
- 会社が2~3年連続の赤字で経営状態が厳しく、人員整理をしないと事業の継続が難しい
- 役員報酬を減らすなど、整理解雇をする以外で経費削減をするための努力を十分に行った
- 整理解雇される従業員の基準が、貢献度や勤怠状況など正当である
- 整理解雇をすると決めた後も、従業員と何度も話し合う場をつくる
整理解雇ではトラブルにならないために手順を守り、法律で決められている4つの条件をクリアしなければ、有効な解雇にはなりません。
ただし中小企業の場合は、整理解雇のための4つの条件が緩和されるケースもあります。
整理解雇について過去の裁判所の判例などを見ると、会社側に厳しく制限が掛けられていることがよくわかります。そのため正しい方法で整理解雇しないと、従業員に訴えられて裁判になった場合、会社側は負けてしまいます。
整理解雇を行うときは十分に注意して、慎重に解雇を行いましょう。
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まとめ
解雇には4種類あり、それぞれの手順、注意点などを解説させていただきました。
事業の継続または、従業員の生活を守るために行われた解雇でも、従業員から訴えられてまい、裁判で負けてしまうと、お金も時間も労力もかなり奪われることになってしまいます。
ですから、解雇する場合には、解雇と判断する根拠と手順に注意して、解雇後のトラブルを防ぐことが大切です。