2020年4月1日から、中小企業でも「時間外労働の罰則付き上限規制」が始まります。
簡単にいうと、上限を超える残業ができなくなります!
今まで残業時間の上限が法律で決められていませんでした。
しかし、2020年4月からは、中小企業も含め、時間外労働の上限を超える残業は、罰則つきで禁止されます。
罰則の具体的な内容は、6ヵ月以下の懲役か30万円以下の罰金です。
この記事は中小企業の2代目社長さまに向けて、
①時間外労働の上限規制の内容 |
を解りやすくお伝えいたします。
最後までお読み頂くと、働き方改革を人手不足に強い会社に変えるヒントが手に入ると思います。
解説 社会保険労務士 牧野 剛
中小企業に適用される時間外労働の上限規制
2020年4月から、中小企業にも原則1ヶ月45時間、1年360時間の上限規制が行われます。
このルールを破った場合に、懲役も含めた厳しい罰則を受けることになります。
参照元:”時間外労働の上限規制“
中小企業とは?
中小企業に該当するかどうかは、「資本金や出資金の総額」と「常時使用する労働者の数」のどちらかの基準を満たすかどうかで判断されます。
つまり、「資本金」か「常時使用労働者」のいずれかが、基準を下回ると中小企業となります。
【具体例】 常時使用労働者が1000人いる小売業でも、資本金が1000万円の場合は、中小企業となります。 |
参照:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」[PDF]
時間外労働の上限規制とは
2020年4月から、中小企業の残業時間の上限は、月45時間・年360時間とし、臨時的な特別な事情が無ければこれを超えることはできません。
月45時間、年間360時間までの時間外労働が基本となる(※1)。
特別条項つきの36協定を用いると、
・月45時間を超える時間外労働を年6回まで延長できる。 ・時間外労働の1年の上限が720時間まで延長できる ・時間外+休日労働…月100時間未満まで延長できる ・時間外+休日労働…2~6月平均80時間以内まで延長できる |
※1 1年単位の変形労働時間制の場合は、時間外労働の上限が月42時間、年320時間になります。
「残業時間」と「時間外労働」の違い
労働時間は、原則1日8時間以内・1週40時間以内と決められています。これを法定労働時間といいます。この法定労働時間を超えた時間が時間外労働です。
また、休日は毎週少なくとも1回与えることとが原則です。この休日を「法定休日」といいます。
一般的に「残業時間」は、会社で決めた「所定労働時間」を超えた時間です。
例えば、
【具体例】 勤務時間9:00~17:00、休憩1:00、所定労働時間 7:00、土日休 |
この18:00~19:00までの1時間が、時間外労働の上限規制の対象となります。
36協定がないと残業できない
法定労働時間を超えて、残業させる場合や法定休日に働かせる場合には、次の手続きが必要です。
①「36(サブロク)協定」の締結 ② 労働基準監督署長への届出 |
なお、36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「時間外労働の上限」などを決めなければなりません。36協定の書き方も大きく変わりましたが、それは別の記事で解説させて頂きます。
旧制度の時間外労働の上限規制
これまでは、36協定で定める時間外労働については、厚生労働大臣の「告示※」によって、上限の基準が決めらていました。
しかし、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情がある場合は、特別条項付きの36協定を締結すれば、限度時間を超える時間まで時間外労働を行わせることができました。
この「告示」による上限は、罰則による強制力がありませんでした。つまり、特別条項を設けることで、上限無く時間外労働を行わせることができたのです。
参照:労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」[PDF]
罰則つきの時間外労働の上限規制
2020年4月以降は、中小企業も罰則付きの上限が適用され、臨時的な特別な事情(特約条項)がある場合にも上回ることのできない上限ができました。
具体的にいつから適用されるの(上限規制の経過措置)
中小企業は、2020年4月1日以後の期間のみを定めた36協定に対して上限規制が適用されます。2020年3月31日を含む期間について定めた36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。
時間外労働の規制が除外される中小企業は?
残業時間の上限規制適用には、例外的に猶予期間や除外規定が設けられている業種があります。以下では、残業規制が適用外になる中小企業について解説します。
関係のない事業、業務の方は飛ばして下さい。
時間外労働の適用が猶予・除外となる事業・業務
・建設業
時間外労働の上限規制には5年の猶予が設けられ、2024年4月からの適用となります。
ただし、災害時の復興などの一部業務は例外として単月で月100時間未満、2カ月~6カ月平均で月80時間以内とする要件は適用されません。
・自動車運転の業務
トラック、バス、タクシーなど自動車運転業務も、残業の上限規制は5年の猶予があります。
しかし、ココで注意が必要です。それは、建設業と違って「自動車運転の業務」にだけが猶予されていることです。事務、配車、倉庫、整備など、自動車運転の業務以外は、時間外労働の上限規制が適用されます。
・医師
5年の猶予後、2024年4月より適用となる見通しです。
労災認定される「過労死ライン」(月80時間超)を踏まえ、一般医師は休日労働込みで残業時間の上限を年960時間までに規制する厚生労働省の案が示されました。引き続き検討される予定。
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
季節に大きく影響される業種であるため、5年の猶予が与えられています。2024年からは同じ罰則つきの上限規制が設けられる。
・新技術・新商品などの研究開発業務
厳しい競争や長時間の実験などが伴う特殊な業務になるため、唯一適用除外の指定を受けています。
なお、新技術・新商品などの研究開発業務は、 週40時間を超えた労働時間が月100時間を超えた労働者には医師の面接指導が罰則付きで義務付けられたので、注意が必要です。
参照:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」[PDF]
2023年4月中小企業の60時間超の割増率が50%に
月60時間を超える時間外労働の割増率は大企業50%以上、中小企業25%以上です。
2023年4月に中小企業も50%以上になります。
建設業、自動車運転の業務など時間外労働が多い事業、業種にとって、時間外労働の割増率50%はかなり大きな負担となることが予想されます。これから、時間外労働の短縮は事業の存続を左右する重要課題となってきます。
罰則だけでない上限規制の違反リスク
残業の上限規制に違反していると、労働基準監督署の調査で指摘を受け、最悪、懲役6ヵ月とか、罰金を課せられることがあります。
実は、それだけはありません。
最も怖いことは、未払残業請求を主な仕事にしている弁護士から訴えられるリスクが高まることです。
例えば、「時間外労働 上限規制」と検索すると次の対策を進めている弁護士事務所もあります。
上限規制に違反していたら、 ・真っ先に弁護士に相談 ・退職前に証拠を集める ・早急に退職 ・社内に同じ状況の方がいれば集団訴訟 ・労働基準監督署への申告/通報 |
具体的には、 「退職する前に、長時間労働の証拠を集める、激務で身体を壊した場合には医師に診断書をもらうとベター」、さらに、「勤務先が明らかに労働基準法に違反している場合には、証拠を集めて管轄の労働基準監督署に通報するのもひとつの方法だ」と薦めています。
つまり、残業の上限規制を守っていないと、腕利き弁護士のターゲットになってしまいます。
最悪のケースでは、未払残業代の集団訴訟、労働基準監督署の是正勧告、罰則の適用、厚生労働省による企業名公表となります。 そんな事態になると事業の存続そのものが難しくなります。
だから、早めに残業の上限規制のポイントを理解し、きっちりリスクを抑えて、本業に安心して集中できる環境を作りましょう。 |
中小企業が今すぐ行うべきこと
今回の法改正で変わった36協定のルールとは?
36協定を締結するときに、労働者の過半数を代表する者を選ぶ必要があります。
今回の法改正で「使用者の意向によって選出された者ではないこと」などが追加され、過半数代表者を選出する際のルールがより厳格化されました。なお、選出にあたっては、正社員だけではなく、パートやアルバイトを含めた全ての労働者が手続きに参加できるようにしなければなりません。
労働者の過半数を代表する者は
①「監督又は管理の地位にある者」でなく、かつ ② 36協定を締結する者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等(※1)の方法による手続により選出された者であって ③使用者の意向に基づき選出されたものでないこと(※2) |
が要件です。
さらに、会社は、過半数代表が36協定の締結などの事務が円滑にできるように、必要な配慮(※3)を行わなければなりません。
※1 「投票や挙手等」における「等」には、労働者の話し合い、持ち回り決議、その他労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きが該当します(平成11.3.31 基発第169号)。
※2 会社による指名や、社員親睦会の代表が自動的に選出されることなどは不適切な選出となります。
※3 事務機器(イントラネットや社内メールも含む)や事務スペースの提供等)など
中小企業で必要になる実務とは?
社長:先生!いよいよ4月から残業の規制が始まるよね
私 :はい
社長:確か2月、3月…って平均出してオーバーしてるかチェックする必要があるのではない?
私 :はい
社長:従業員一人ずつ電卓叩いて計算するの?
私 :あ~はい
社長:大変だよね。先生、何とかしてよ!
私 :いや~…(本当に大変だよなぁ~)
社長:以前、Excelで作ってくれた有休管理簿みたいに、作って欲しい!
私 :エッ~解りました
残業の上限管理は、本当に大変です。 |
毎月、従業員一人一人次の8つの労働時間を計算する
次の①~⑧を毎月毎月、従業員一人一人に対して、チェックしなければなりません。ペンと電卓で計算していたら、ウンザリします。
例 2020年4月
①その月の残業時間(9月) 時間外労働が45時間を超えている否か?
⑥4ヵ月平均で残業時間(9月、8月、7月、6月) ⑦5ヵ月平均で残業時間(9月、8月、7月、6月、5月) ⑧6ヵ月平均で残業時間(9月、8月、7月、6月、5月、4月) |
警告基準(アラート)の設定
休日労働を含めた2~6ヵ月平均の上限管理を、電卓で手計算するのは大変です。
また、従業員に対して上限を超えない働き方を指導するためには、上限規制項目ごとの時間外労働時間の自動計算し、警告基準を作ってアラート表示するのが便利です。
社員にも、上司にも、総務にも負担なく実務が継続できる仕組みをつくりましょう。上限規制の項目ごとに時間外労働+休日労働を集計し、上限を超えそうな場合は、警告してくれるシステムづくりが重要です。
①月45時間を超える回数(年6回以下) ②単月の時間外+法定休日 < 100時間 ③2~6ヵ月の時間外+法定休日の平均80時間以下 ④年間の時間外+休日が720時間を超えているか否か? |
通常月42時間、繁忙月78時間で徹底しよう
毎月毎月、9つの時間をタイムカードから拾って、電卓を叩いて計算していたら、本当に大変です。
また、36協定で特約条項を80時間を超えて、例えば月98時間と定めると、かなりの確率で「長時間労働抑制・過重労働による健康障害防止のための自主点検」が労働基準監督署から届きます。
この自主点検表で問題になる会社は、労働基準監督署の調査を受けやすくなります。
とすると、特約条項の1ヵ月の上限は80時間未満、例えば「78時間」などに定めた方が無難です。
そして、2~6ヵ月の平均が80時間以内であり、年間760時間以内である必要があるので、時間外労働の上限を次のように、従業員に徹底するのがお薦めです。
通常月(年6回) 時間外+休日+法定休日 月42時間以内 繁忙月(年6回) 時間外+休日+法定休日 月78時間以内 |
※「通常月」とは45時間以内の月、「繁忙月」とは特約条項を適用する月を、現場の管理職、一般社員に解りやすく徹底するために、社労士法人ロームが作った「造語」です。
残業時間の減らし方
残業時間を見える化し、徹底的に声を掛ける
最もシンプルな手段は、何回も何回も従業員に声かけをすることで徹底的に残業削減を「意識」させることです。
実は、コレだけでかなり時間削減の効果があります。
止めることを探す
働き方改革のコツは、止めることを探すです。
①止めること ②無くすこと ③減らすこと ④簡単にすること |
を探しましょう。
例えば、お客様を粗利総額順で並び替えて、粗利益が少ない割に、手間ヒマばかり掛かるお客様を探すことは重要です。
粗利益額が少ないお客様との値上げ交渉をして、値上げに応じてくれないお客様との取引を思い切って止めることも極めて重要です。
高く買って頂く
働き方改革は、「生産性」アップの取り組みです。 生産性アップというとう、スグに思い浮かぶのが、「早く作る、短い時間で作る」です。 つまり、「効率アップ」です。
しかし、効率アップだけが生産性アップではありません。
とにかく早く手を動かす効率アップよりも、「生産性」を劇的にアップする方法があります。それは、粗利総額のアップです。
その中で、もっとも効果的なのが…「単価アップ」です。
高くても喜んで買って頂ける状況を、作り出すことです。
働き方改革の本質とは?
残業時間だけを減らすと
残業が減っただけの場合は、怖いことが発生することがあります。
それは、残業手当を生活のあてにしていた社員の「退職の引き金」になることです。退職準備は水面下で行われます。
退職願が出たときには、次の就職先が決まっているのです。
働き方改革の本質は?
働き方改革は「稼ぎ方改革」です。
つまり、「生産性のアップ」です。 ココが最大のポイントです。 粗利アップを通じて、少ない残業時間でも、キチンと生活できる賃金を払える会社に変わることが大切です。 |
単に残業時間を減らし、有給休暇の取得を増やしただけの会社は、人手不足に陥る可能性が高い。
これから、消費増税、新型コロナウイルス、人口減少による不景気と人手不足が混在する時代になります。
これから、「人の採用・定着・育成・活躍」が経営課題となります。
そんな厳しい時代は、頼れる相談相手が必要だと思います。いかがでしょうか?
ロームなら、「時間外労働の上限規制」にこんなサポートができます!
最後に、社労士法人ロームの「時間外労働の上限規制」についての労務管理のサポート内容をご紹介しておきたいとおもいます。
ロームの特徴
私たちは、まず徹底的にお客様の状況をヒアリングさせて頂きます。
当たり前ですが、お客様ごとに「状況」が大きく違います。私たち社労士には守秘義務がありますので、安心してお話しください。
お客様の現状、悩み、望みを確認した上で、お客様が望む方向で解決策をご提案させて頂きます。だから、安心してご相談下さい。きっと頭の中が整理できて、具体的な解決先が浮かび、気持ちが楽になります。
時間外労働の上限規制に関するご相談(初回90分無料)
次の書類のチェック ・就業規則 ・時間外労働の協定書(36協定) ・タイムカード、出勤簿 ・賃金台帳 ・雇用契約書 残業時間の削減、効率化の提案 助成金の提案 |
社労士法人ロームでは、時間外労働の上限規制に助成金を活用しながら対応することができます。だから、最小のコストで残業時間の上限規制に対応することができ、社長の肩の荷が下りた感じを実感できます。
働き方改革、時間外労働の上限規制に強い「社会保険労務士法人ローム」へのお問い合わせ方法
時間外労働の上限規制の相談は、下記から気軽にお問い合わせください。
働き方改革、時間外労働の上限規制に強い社労士によるサポート内容については「当事務所の8つの特徴」のページをご覧下さい。
また、今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜18:00)」にお電話いただくか、メールフォームにて受付しています。お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※労働者、個人の方からの問い合わせは受付しておりません。ご了承ねがいます。
まとめ
2020年4月から、中小企業にも原則1ヶ月45時間、1年360時間の上限規制が行われます。
このルールを破った場合に、懲役も含めた厳しい罰則を受けることになります。
残業上限規制を守って、ムダな残業時間を減らすために、クラウドの勤怠システムかExcelファイルの残業管理簿を作成して、しっかり労働時間の実態を把握していきましょう。
その上で生産性をアップして、人手不足に強い会社を作っていきましょう。