社会保険労務士法人 ロームのお役立ち情報

2018.11.05

有給休暇の取得義務化|5日の時季指定と対応策(2019年4月)

  • 2019年4月から始まる有給休暇義務化について知りたい
  • 有給休暇の5日の時季指定はどうすれば良いのか知りたい
  • 義務化の対象は、正社員だけなのかを知りたい
  • 有給休暇5日取得義務には、どんな対策があるのか具体的に知りたい

 

 


この記事は、そんな悩みをお持ちの社長さま、総務部長さまに向けて書いています。


こんにちは
社会保険労務士法人ロームの牧野です。

では、2019年4月から施行される有給休暇の5日の強制取得についてお話しさせて頂きます。

今回の労基法改正は、70年ぶりの大改正です。
そしてこの改正は経営に大きな影響を与えます。まずは、その内容を正確に把握して頂き、いち早く対策を打っていきましょう。
では、早速はじめましょう。

1. 何がどう変わるのか?


下の動画(14分)にて、有給休暇に関する変更点から、対応策まで詳しく解説しています。
一度ご覧頂いてから、このページをお読み頂くと更に理解が深まると思います。
是非、ご覧ください!!


今までの有給休暇は、労働者自ら申し出なければ取得することができませんでした。

つまり、簡単に言うと「請求がないから有給休暇を与えなかった」という言い訳が苦しいながらも通っていました。

有給休暇は、労働者が「〇月×日に休みます」と使用者(以下、「会社」と言います)に取得時季を申出して、使用者が時季変更をしなければ、成立する仕組みです。

つまり、労働者からの取得時季の申出が有給休暇の取得の条件でした。

1.1 日本の有給休暇の取得状況は?


この「有給休暇の申出がしにくい」ということで日本の有給取得率は49.4%と海外に比べると、とても低い水準でした。


ちなみに、この調査は、30人以上の企業を対象に調査しているので、30人未満の中小零細企業を含めた有給休暇の取得率は更に低いと予想されます。

1.2 今回の変更点



これが、今回はガラッと変わりました。

会社が、労働者の希望を聞き、その希望を踏まえて、時季を指定し、年5日は取得させる義務が加わったのです。

つまり、「請求が無かったから取得させなかった」という言い訳が通らなくなり、請求があっても無くても、会社が有給休暇の5日の時季を指定し、取得させる義務が課せられました。

会社が労働者の取得時季の希望を聞いて、取得させる努力義務があるので、
これにより、労働者の希望を踏まえて使用者が「有給休暇を〇月×日に取得して休んで下さい」と時季指定をしなければならなくなりました。

これ、本当に大きな法改正なんです。

2.そもそも、「有給休暇」とは?

有給休暇取得義務

有給休暇は、労働基準法第39条で決められています。

使用者は、その雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し
全労働日の8割以上出勤した労働者に対し
継続し又は分割した10労働日に有給休暇を与えなければならない
【労働基準法第39条第1項】

「入社日から6ヵ月継続勤務して8割以上出勤した人に有給休暇10日を与えなさい」という内容なのです。

3.「有給休暇」を取得するには?

有給休暇は請求が要件

使用者は、前3項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければなりません。
ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができます。

労働者から、有給休暇を取得したいと、請求(時季指定)されたら、使用者は、その請求された時季に年次有給休暇を与えなければなりません。

しかし、労働者の請求した時季に年次有給休暇を与えると事業の正常な運営が妨げられる場合は使用者は有給休暇を取得する時季を変更する権利をもっています。

ただし、事業の正常な運営が妨げられるとは、「ただ単に忙しいから」などの理由では認められせん。


事業の正常な運営ができないレベルの場合とは
具体的にいうと、同じ日に大量の労働者が同時に休暇を取得した場合などが考えられます。

4.有給休暇の付与日数は?


有給休暇の付与日数は、次の表のとおりです。


勤続年数  6ヵ月 1年6ヵ月 2年6ヵ月 3年6ヵ月 4年6ヵ月 5年6ヵ月 6年6ヵ月
付与年数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日


6ヵ月目で10日、1年6ヵ月目で11日、その12日、14日、16日、18日、20日とだんだん勤続年数に応じて付与日数が増えていきます。

この有給休暇の付与日数は、正社員だけでなくアルバイトもパートも同じです。期間契約社員も週の所定日数に応じて有給休暇が付与されます。

週5日以上勤務してる人、週30時間以上勤務している人は、この表の有給休暇を与えなければなりません。

今までも、有給休暇を付与する義務がありました。これは変わりません。
しかし、正社員も、アルバイトも、パートも、有給休暇の請求(時季指定)がしづらかったために、有給休暇が取得できていませんでした。
そして、「請求がなかったから、取得が進まなかった」という言い訳が出来ていました。<br

しかし、今回の法改正で強制的に5日を時季指定して、取得させなければならないと義務化されたわけです。
これは、大きな法改正です。

4.1 5日の時季指定の対象外の人は?

週の勤務日数が少なく、年10日の有給休暇を付与されない人は、今回(5日取得義務)は対象外になっています。

有給休暇の強制取得の対象外


週の所定労働時間が30時間未満であって、週の労働日数が4日以下、または年間の所定労働日数が216日以下の人については、その人の勤務日数に比例して付与日数が決まります。

例えば、週の所定労働時間が30時間未満で、週4日勤務の人は、勤続6ヵ月目に7日、1年6ヵ月目に8日、2年6ヵ月目に9日の付与日数となります。

この場合は、付与日数が10日未満なので、今回の5日時季指定には該当しません

しかし、勤続3年6ヵ月からは10日の付与日数となるので、5日の時季指定の義務が発生します。

4.2 1日の勤務時間が1時間の学生アルバイトでも

1日の勤務時間が1時間の学生のアルバイトでも、週5日勤務している場合には、有給休暇の最低10日の付与と5日の時季指定義務が発生します。

また、週4日勤務でも1日8時間以上勤務してると、4日×8時間=週32時間なるので、有給休暇の最低10日の付与と年5日の時季指定義務が発生します。

5.法定義務と罰則

 

5.1 罰則は?

有給休暇を仮に3日間しか取得していない場合は、残りの2日間は時季指定をしなければならないので、会社が労働者の要望を聴いて、時季指定しないといけません。
そうしないと労働基準法違反になるということです。

有給休暇の2日間を時季指定して取得させなかった場合は、罰則が科されます。
使用者に30万円以下の罰金が科されるんですね。なお、使用者とは「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」なので、部長、課長、店長も使用者になりえます。

5.2 有給休暇の管理簿

有給休暇の管理簿が法定義務化されます。3年間の保存義務があります。
どのような帳簿は、動画で詳しく説明していますので、是非ご覧下さい。
この管理簿の管理が意外と難しいのです。


例えば、
Aさんが入社したのは1月1日、
有給休暇が付与されるのは6ヵ月後の7月1日になります。7月1日に付与される有給を仮に初年度として10日だとします。この10日の有給のうち、5日は7月1日から翌年の6月30日の間に取得する必要があります。


Bさんは2月21日に入社、有給休暇が付与されるのは6ヵ月後の8月21日です。5日を取得する必要がある1年間は8月21日から翌年の8月20日となります。

Cさんは3月10日に入社となれば有給休暇が付与されるのは6ヵ月後の9月10日です。5日を取得する必要がある1年間は9月10日から翌年の9月9日となります。


お気づきだと思いますが、従業員ごとに付与日はこのようにズレています。

入社日ごとに付与がズレるとその後5日取得する必要がある1年間も当然ズレるので、管理が難しいのです。

6.具体的な3つの対応方法


有給休暇の強制5日取得に対する対応方法は、主に3つあります。

  • ①労使協定を結んで年次有給休暇の5日を計画付与する
  • ②付与と同時に有給休暇の5日を時季指定する
  • ③一定期日に5日から取得日数を差し引いた日数を時季指定する

 

 

労使協定を結んで年次有給休暇の5日を計画付与する


会社で一斉に有給休暇を与える、またはグループ別に有給休暇を与えると決めて、会社で一斉、または交代で計画的に有給休暇を取得させることで、5日を時季指定します。
なお、有給休暇を計画取得する場合には、労使協定が必要になります。
有給休暇を一斉に取得してしまうので、一番手間ヒマのかからない対策です。

なお、この場合には、労働者から時季指定の要望を聴く義務はありません

 

付与と同時に有給休暇の5日を時季指定する


有給休暇を付与する際に、あらかじめ年5日を時季指定します。なお、時季指定の際には、労働者の希望を聴く努力義務があります。
時季指定をしたら、1年間の予定表を組んで書き込みます。

一定期日に5日から取得日数を差し引いた日数を時季指定する


例えば、有給休暇を付与して7ヵ月目経過後に、「何日有給休暇取れていますか?」と有給休暇管理簿を見ながら質問し、「全然取っていません 」と言われば、「では、8ヵ月目から1日ずつ取りましょう」と話し合い、8ヵ月目、9ヵ月目、10ヵ月目、11ヵ月目12ヵ月目という形で毎月取得させていくという方法です。
つまり、一定期日に残日数から消化日数を引いた数を時季指定するという方法です。

この三つのパターンが対応策としては考えられます。
それぞれ就業規則の条文を作る必要があります。

7.プロに相談しよう


対策を進めるにあたって、コツがあります。
それはキチンとプロの社会保険労務士に任せることです。

就業規則の改定は、すごく大切なことです。今回は、百何十条もある就業規則のたった一つの条文について説明しています。

しかし、一つ一つの条文には意味があります。そして、たった一つを見落としたことにより、発生する被害は数十万円から数億円になります。

就業規則の基本的な知識は社長さまも持っていた方が良いのですが、
実務は社長さん自ら行うと、失敗してしまうケースが多いので
プロの社労士に任せることをお勧めします。

8.どれ位のコスト負担になるのか?


年間休日が105日の会社の場合では、年間労働日数は365日-105日=260日です。

仮に、有給休暇の取得が今までゼロだった場合に、全員が年間5日の有給休暇を新たに取得すると、

年間所定労働日数 365日-105日=260日
有給休暇取得日数 5日
コストアップ   5日÷260日=1.92%
約2%の人件費が上昇します。

もちろん、効率がアップしたり、生産性がアップして吸収できるかもしれませんが、何の取組みも工夫もなく、有給休暇を5日多く取得させるということは、約2%のコストアップにつながります。

更に、有給休暇を取得をした経験から、さらに有給休暇の取得が進む可能性もあります。

9.多くの中小企業にとってはピンチ!


今回の有給休暇の年5日の強制取得は、多くの中小企業にとって、大きな経営負担になります。

正社員に加えて、パート、アルバイトにも年5日有給休暇を与えるのは、かなり大変です。
日本は人口減少社会で、空前の人手不足です。そんな中で有給休暇を取得させるために人を増員するのは正直、困難だと思います。

当然、年5日の有給休暇を取得させるためには、次の様な対策を打たなければなりません。

  • 有給休暇のための補充人員を増やす
  • 単価アップをして、粗利益総額を増やす
  • 効率化など生産性をアップする
  • 信用・信頼を獲得し、チェックを減らす
  • 利益に貢献していない生産性の悪い仕事をやめる

 

 

有給休暇の年5日間の強制取得という空前のピンチをチャンスに変えるために、有給休暇の取得率を上げて、求人、採用に活かしていきましょう。
せっかく、有給休暇の取得率を向上させるなら、採用に有利に活用してみてはどうでしょう?アイデアを社内で集めるのも効果的です。
例えば、有給休暇を年5日取得をするための求人です。と募集するとなんだか労働条件が良い会社というイメージになりませんか?
ピンチをチャンスに変えていきましょう!

10.従業員の力を結集させる!


従業員を有給休暇の年5日取得の取り組みに巻き込んで、共に解決していくことをお薦めします。

2019年4月1日から有給休暇の強制取得が始まります。

しかし、今の生産性では年5日の取得は難しいし、人手を補充したくても、中途採用もなかなか進んでいません。

それでも、有給休暇の年5日の強制取得は始まります。
そこで、みんなの力で、年5日の有給休暇を取得できるように、生産性のアップに取り組みたいと思っています。
どうすれば、年5日の有給休暇を取得しながら、仕事が回るかアイデアを出して、その実行に協力して欲しいです。

例えば、こんな感じで、従業員を巻き込んで相談すれば良いと思います。

労働基準法は、守らないといけない法律です。そして、労働者の権利は、権利として必ず守らなければいけない。それは当然です。
しかし、実際に有給休暇を全従業員が年5日取得すれば、やはり仕事が忙しくなります。
会社は、人も雇わなければいけない。そのためにお金を用意しないといけない。でも粗利益がないと労働条件は良くなりません。

  • 有給休暇を5日取得するために、粗利益を稼ごう!
  • 生産性をアップしよう!
  • ムダな作業を減らそう!
  • 他の人の仕事を覚えて、有給休暇を取れる体制を作ろう!

 

 


と、思い切って従業員の力を結集することが大切です。
今回の法改正は、就業規則の条文を直すとか、有給休暇の管理簿をつけると言う事務的な取り組みだけでは不十分です。

「有給休暇を取得する権利も守るけど、同時に責務を果たしてほしい!
生産性も上げてほしい!俺が先頭を立って頑張るから君たちも一緒に協力してくれ!」と訴えることが、大切です。

11.有給休暇の5日取得のための4つのステップ!


対策の進め方は、4つのステップで進めます。

  1. 対策案の決定
  2. 就業規則の変更、労使協定の締結
  3. 有給休暇管理簿の作成と管理
  4. 従業員への働きかけ

11.1 あなたの会社にあった対策案の決定

有給休暇の5日の時季指定を、どのパターンで管理するかです。

  • ①労使協定を結んで年次有給休暇の5日を計画付与する
  • ②付与と同時に有給休暇の5日を時季指定する
  • ③一定期日に5日から取得日数を差し引いた日数を時季指定する

その対策に応じて、就業規則と労使協定を作成していきます。計画取得の場合は労使協定が必要です。

そして、対策に適した有給休暇の管理簿を作成します。

11.2 専門家のアドバイスを


今回の法改正は、本当に大きな法改正です。
最初から「こんなの無理、知らないことにして放置しよう!」とすると、後から一気に問題が噴出します。
社長さま一人でこの大変さを担わないで欲しいです。

専門家の社労士に相談して、

  • どういう対策が自分の会社に適しているのか?
  • 就業規則をどう改定したら良いのか?
  • 従業員にどう働きかけをしたら良いのか?
など、早い時期に社労士に相談することをお薦めします。

もし、そういったことでお困りのことは、社会保険労務士法人ロームに一度ご相談下さい
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

12.年次有給休暇の条文(労働基準法第39条)

 

①使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
②使用者は、1年6箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して6箇月を超えて継続勤務する日(以下「6箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる6箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。
ただし、継続勤務した期間を6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては有給休暇を与えることを要しない。

6箇月経過日から起算した継続勤務年数 労働日
1年 1労働日
2年 2労働日
3年 4労働日
4年 6労働日
5年 8労働日
6年以上 10労働日
.

③次に掲げる労働者(1週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前2項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の1週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数(第1号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の1週間の所定労働日数又は1週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数とする。
1  1週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして厚生労働省令で定める日数以下の労働者
2  週以外の期間によつて所定労働日数が定められている労働者については、1年間の所定労働日数が、前号の厚生労働省令で定める日数に1日を加えた日数を1週間の所定労働日数とする労働者の1年間の所定労働日数その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める日数以下の労働者

④使用者は、前3項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

⑤使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。

以下が今回の法改正で追加された条文です。

⑦使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち5日については、基準日(継続勤務した期間を6箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
ただし、第1項から第3項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

⑧前項の規定にかかわらず、第5項又は第6項の規定により第1項から第3項まで規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

 

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