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2019.07.13

労働基準法改正|中小企業が押さえておくべきポイントと取るべき対策とは

2019年4月に労働基準法が改正されました。その背景には働き方改革の実現があり、この法改正にともない中小企業にはさまざまな対策を講じることが求められています。

そこで、この記事では労働基準法の改正や関連法案の施行に関して、中小企業が押さえておくべきポイントとどのような対策を取るべきなのか解説します。

1.労働基準法を改正した目的は労働力不足の解消

日本では、「少子高齢化による生産年齢人口の減少」に伴い、労働力不足に悩まされています。

今後働き手はますます減り、どこも労働力不足に陥る可能性があります。さらに育児や介護との両立など働き手側のニーズも多様化しており、仕事だけに時間を割ける状況ではありません。

この「労働力不足の解消」のために働き方改革が提唱され、その一環として労働基準法は改正されたのです。

1-1.働き方改革の3つの柱

今後日本に訪れる深刻な労働力不足を解決するべく、働き方改革では以下の3つの柱を立てています。

  1. 長時間労働の削減:仕事の生産性を高め、仕事と家庭の両立を図る
  2. 非正規雇用の待遇改善:同一労働同一賃金を実現
  3. 高齢者の就労促進:定年引き上げや継続雇用により労働力を確保

そのために、以下の3つを実現する必要があるのです。

  1. 家庭と両立できる社会
  2. 非正規雇用者の格差是正
  3. 高齢者の積極雇用

2.労働基準法改正の4つのポイント

2019年4月に、長時間労働を是正するべく労働基準法が改正されました。まずは中小企業がこの改正で抑えておくべきポイントを4つ挙げていきます。

  • 労働基準法改正のポイント①:時間外労働の上限規制と罰則
  • 労働基準法改正のポイント②:36協定の制度改正
  • 労働基準法改正のポイント③:月60時間超の割増賃金が5割に(中小企業は2023年4月1日施行)
  • 労働基準法改正のポイント④:年次有給休暇の時季指定の義務化

順に見ていきましょう。

2-1.労働基準法改正のポイント①:かなり厳しい時間外労働の上限規制と罰則

これまで法律で規制されていなかった時間外労働に、上限規制が設けられました。また、上限規制を順守できなかった場合には罰則が設けられるなど、かなり厳しい内容になっています。

2-1-1.時間外労働の上限規制の原則と例外

時間外労働の上限規制は、「原則として守らなければならない事項」および「やむを得ない場合の例外」があります。

  • 上限規制の原則①:月45時間以内
  • 上限規制の原則②:年360時間以内

一時的な業務量の増加でやむを得ない時期(以下:繁盛期間)であれば、上限規制の原則が例外的に緩和されます。

  • 繁盛期間の残業上限規制①:年間の時間外労働は720時間以内
  • 繁盛期間の残業上限規制②:2~6か月以内の平均は80時間以内
  • 繁盛期間の残業上限規制③:月100時間未満
  • 繁盛期間の残業上限規制④:月45時間を超える時間外労働は、年6回を超えてはならない

ただしこの上限規制について、以下の職種では適用猶予・除外となります。該当する場合は、個別に確認しておきましょう。

  • 上限規制適用外の職種①:自動車運転の業務
  • 上限規制適用外の職種②:建設事業
  • 上限規制適用外の職種③:医師
  • 上限規制適用外の職種④:新技術・新商品等の研究開発業務

2-1-2.上限規制を違反した場合の罰則|6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

上限規制に違反すると、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が科せられます。残業の上限規制はすべての企業が取り組むべき義務です。これとあわせて、労働時間の客観的な把握が必須になります 。

このような罰則が設けられたことは、時間外労働に対してかなり厳しくなっており、国全体で取り組むべき課題だとみなされていると言えるでしょう。

2-2.労働基準法改正のポイント②:36協定の様式の変更点

時間外労働の上限規制にともない、36協定についても様式が変更され、時間外労働を把握し、労働者の健康を守る措置に重きが置かれる内容となりました。

具体的な変更点は以下の通りです。

  • 従来:様式の余白に理由と延長時間を記入すれば、原則として何時間でも時間外労働が可能(いわゆる「特別条項」)
  • 今後:時間外労働の上限を超えていないかを把握できる様式へと変更

2-2-1.36協定変更によって必要になった2つの措置

また、36協定変更に伴い必要な措置が2つあります。

  • 36協定で必要な措置①:上限時間を超えた場合には労働者の健康を確保すること
  • 36協定で必要な措置②:この措置の実施状況を記録し3年間保存すること

2-3.労働基準法改正のポイント③:月60時間超の割増賃金が5割に(中小企業は2023年4月1日から)

これまで中小企業では適用が猶予されていた「月60時間超の時間外労働の割増賃金は5割以上」という規定が、2023年4月1日(令和5年)より中小企業にも適用されることになりました。

時間外労働に対する適正な賃金の確保と同時に、生産性を上げていかに時間外労働を削減できるかというところがポイントになってくると言えるでしょう。

2-4.労働基準法改正のポイント④:年次有給休暇の時季指定の義務化

年次有給休暇について、時季指定での取得が義務付けられました。

年次有給休暇に関して守らなければならない規則が4つあります。

  • 有給休暇の関する規則①:10日以上の年次有給休暇が付与されている従業員に対して、使用者は付与した日から1年以内に少なくとも5日間取得させなければならない
  • 有給休暇の関する規則②:取得時季 は従業員の希望を聞いた上で設定する
  • 有給休暇の関する規則③:年次有給休暇の取得が5日に満たない従業員がいる場合、使用者は労働基準法違反として処罰の対象となる
  • 有給休暇の関する規則④:年次有給休暇の取得については、管理簿を作成し、管理しなければならない

3.パートタイム・有期雇用労働法改正のポイント

続いて、2020年4月の施行を控えている「パートタイム・有期雇用労働法」のポイントを解説します。

「パートタイム・有期雇用労働法」は、正規雇用者と非正規雇用者の格差是正を規定した法律です。本法では短時間労働者だけでなく有期雇用労働者も同法の対象となりました。

この法律が施行される背景としては、パートにも働きやすい社会を作り、労働力を確保したいという思いがあります。

3-1.均等な待遇の確保

雇用者は、短時間・有期雇用労働者に対して不合理な待遇として扱うことを禁止されました。具体的には、以下のように規定されています。

  • 雇用者は、短時間・有期雇用労働者に対して①基本給・②賞与・③その他の〝待遇のそれぞれ〟について正社員と均等にしなければならない

これらは後述する「同一労働同一賃金のガイドライン」にも関連する内容です。特に短時間・有期雇用労働者の「基本給」「賞与」「待遇のそれぞれ」と明記され、正社員との均等ルールがより明確化されたことが大きなポイントになっています。

3-2.賃金決定に関する義務

短時間・有期雇用労働者(正社員と同視すべき者を除く)に対して、賃金の決定は以下の事項をもとに評価すべきであると明記されました。

<短時間・有期雇用労働者の賃金を決定する評価項目>

  • 賃金を決定する評価項目①:職務の内容や成果
  • 賃金を決定する評価項目②:意欲
  • 賃金を決定する評価項目③:能力または経験
  • 賃金を決定する評価項目④:その他の就業の実態に関する事項

賃金決定に関して透明性が高い企業が今後労働者から支持されていくと言えるでしょう。

3-3.求めがあれば、正社員との待遇差を説明する義務がある

短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合、事業主は正社員との待遇差の内容や理由について説明義務が生じます。

このような事態に応じられるようにするためにも、評価制度を確立し透明性を担保する必要があるでしょう。

4.同一労働同一賃金の実現に向けた取り組み

ここで、パートタイム・有期雇用労働法の要となる同一労働同一賃金について、①これまでの流れと②その実現に向けた具体的な取り組みを解説します。

4-1.同一労働同一賃金の契機:ハマキョウレックス事件

同一労働同一賃金が提唱されるようになった背景には、ハマキョウレックス事件があります。運送業であるハマキョウレックスで、正社員にのみつく各種手当が不合理であるとして2018年6月に最高裁判決が下されました。

例えば、ハマキョウレックスでは無事故手当を正社員のみにつけており、これが契約社員についていないのは合理的でないとして裁判になったのです。事故を起こさないようにする責任は、雇用形態に関わらずすべての従業員が持っている共通認識です。これを正社員と契約社員で分けるのは、不当な格差に値すると言い渡されました。

このほかにも、作業手当給食手当も不合理だという判決が出ています。

今後このような格差是正は社会的な流れになり、企業は人件費を確保しなければならないでしょう。逆に人件費を惜しみ正社員との格差是正をしなければ、裁判になったり、従業員が辞めてしてしまうかもしれません。

4-2.同一労働同一賃金ガイドラインが策定

ハマキョウレックス事件などの経緯を踏まえて、同一労働同一賃金のガイドラインが確定されました。その概要は短時間・有期雇用労働者および派遣労働者に対する不合理な待遇を禁止するものです。

ガイドラインでは、正社員と均等にすべき事項として以下の項目が挙げられています。

  • 正社員と均等にすべき事項①:基本給
  • 正社員と均等にすべき事項②:賞与
  • 正社員と均等にすべき事項③:各種手当
  • 正社員と均等にすべき事項④:福利厚生
    (※職金や住宅手当など、一部の待遇は記載なし)

基本的には

  1. 正規雇用者と非正規雇用者の待遇を均等にすること
  2. 相違がある場合にはしっかり説明できる体制を整えておくこと

が求められているのです。

4-3. 同一労働同一賃金の拡大による中小企業への影響

同一労働同一賃金の拡大により、中小企業は今後労働力の確保がより難しくなるでしょう

なぜなら、同一労働同一賃金の拡大により、大企業のパートタイマーの賃金が上昇すると考えられるからです。

大企業の賃上げにつられて、中小企業でも人件費の上昇をしなければならなくなるでしょう。そのため、中小企業としては〝いかに生産性を向上させることができるのか〟ということが焦点になってくるでしょう。

さらに評価制度の作成・見直しを行い、従業員から求められた場合には正規雇用者と非正規雇用者の格差について説明できる体制を整えておかなければなりません。

5.これからの中小企業に求められるもの

働き方改革にともなう法律の改正、同一労働同一賃金のガイドライン策定などを通して、これから中小企業には従業員を定着させ、生産性を上げる仕組み作りが求められます。

5-1.従業員の定着率の改善

これからの時代、企業は「従業員を定着させること」を〝今以上に〟力を入れていくべきです。それは、以下の流れにより、深刻な労働力不足が今後ますます激化すると予想されるからです。

  • 今後の流れ①:生産年齢人口の減少により、顧客よりも従業員が先に減る時代が来る
  • 今後の流れ②:顧客よりも従業員が減った結果、深刻な労働力不足が今後ますます激化する

逆に、従業員を定着させる努力をしないと、人手不足に陥る可能性が高いです。そのような事態を避けるため、経営者は従業員の意見に耳を傾け、従業員を大切にする取り組みを目に見える形で示しましょう

5-2.中小企業は生産性の向上が必要

今後労働不足に陥る可能性は高いため、中小企業は生産性の向上が求められるでしょう。

確保した労働力で最大限の成果を上げるためにも、労働時間を延長するのではなく、業務の効率化に向けた取り組みが必要になります。

6.まとめ:働き方改革の実現に向けた対策を立てよう

この記事の内容をまとめると、以下のようになります。

  • 働き方改革が提唱されている背景には、深刻な労働力不足がある
  • 主婦、パート、高齢者にも働いてもらい、労働力を確保しなければならない
  • 全員が働きやすい社会の実現を目指して法律が改正され、かなり厳しい内容になった
  • 法改正にともない、企業はさまざまな対策を立てなければならない
  • 大企業のパート賃金が上がるため、特に中小企業は労働力の確保が困難になると予想される

深刻な労働力不足を背景として、働き方改革が提唱されています。

れからは働き方改革に取り組む企業が、人材を確保できる時代です。「労務管理」や「評価制度の見直し」 など、企業が対策を立てることは多岐に渡ります

「法改正のポイントや同一労働同一賃金の実現に向けて取り組むべきことはわかったが、具体的に何から手をつければよいのかわからない」という方は、ぜひロームにご相談ください。社長様のお悩みを解決するお手伝いをさせて頂きます。働き方改革の実現に受けて、いっしょに具体的な対策を考えていきませんか?

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